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□辞書(1)
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「花井」
「えひゃ!?」
完全に油断していたところで声をかけられたから、どこから出てんだっていうくらい変な声が出てしまった。今度は別の意味で更に顔が赤くなる。(人間てこんなに顔に血が集まれるんだなって、素直に感心してしまうほどだ)
「あっ、べ…な、何?」
声のした方を向けば、それは阿部だった。
「いや……あー…どうした?すげえ顔赤くなってるぜ。熱でもあんの」
「うえ!?」
思いっきりテンパる。何を言われたのか分らなかったほどには。
「や、あ、そう!ちょっと朝から熱っぽくてさ!!風邪かな〜なんて」
「へぇ……保健室行ってきたら?先生には俺から言っとくし」
「へ!?…あ!そ、そうだな、おう、そうする!サンキュな阿部」
めちゃめちゃ不自然な感じだったのに、意外にも阿部は素直に言葉をそのまま受け取ってくれた。詮索しないという、あいつなりの優しさ、か。けれど聡い奴だから、バレるのも時間の問題…いや、もう知られているのかもしれない。

廊下へと踏み出し、後ろ手にドアを閉めた。そのままずるずると座り込みたい気分がしたが、そうすることも出来ない。俺はふらふらと歩き出した。
―――…どこ行こう…―――
出てきたのはいいが、本当の風邪ではないので保健室へ行く気にはならない。

こんなんじゃ、ダメだ。
自分が情けなさ過ぎる。
キャプテンなのだから、野球部のためにも、しっかりしなければ。

そう思うのだけれど、さっきの田島の顔を思い出して、また心臓が早鐘を打ち出すのは、もうどうしようもない。この気持ちは、いつ終わってくれるのか。気付かれずに、終わってくれるのか。
―――ホント、飛びてー…―――

授業開始のチャイムが鳴った。マジでどこ行こう?










(2)へつづく
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