頂き物

□溺愛10のお題
1ページ/10ページ

猫かわいがり




志々尾限は最近少しだけ、日々の生活を楽しく感じるようになっていた。
その大きな理由は、憧れてやまない夜行の頭領、墨村正守が重大任務である烏森の警護を任せてくれたこと。
きっと翡葉を始め、夜行の面々は大反対したに違いないのに。
それでも限を信じて任命してくれた。
信頼されるということは大きな希望を与える。
自分の存在を忌み嫌っていた限にとって、それは生きる意味にもつながって。
そして。
もうひとつ、小さな理由は。
「時音〜新作ケーキ持ってきたぞ〜〜!」
敵対する一族の人間の名前を嬉しそうに叫んで、無邪気に走ってくる少年。
限が憧れるその人の、弟。
今までに会った誰よりも強い正守を差し置いて、この烏森を護る結界師の正統継承者に選ばれた、墨村良守。
「え〜また?夜に甘いものって、太るのよね〜〜」
長い黒髪をなびかせて。
歯に衣をきせない発言をするのは、もう一人の結界師である雪村時音。
「大丈夫だ!今日のケーキは甘さを控えめにしてある!・・・だから・・」
良守はそこまで言うと木の上を見上げた。
「お〜い!志々尾!お前も食わねーかぁ?ビターだぞ〜」
良守の声に限は無視を決め込んで。
すると直情型の良守は、結界を足場に限のところまでやってきた。
限が妖混じりだと知っても、人間離れしたパワーを見ても、全く態度を変える様子もない良守。
めんどくさい、と思いつつも、少しだけ他の何かを感じるのはなぜだろうか。
「志々尾!無視すんなよ!」
さすがに耳元で怒鳴られては無視もできず。
限は見るからにめんどくさそうに身体を起こして。
「・・・別に・・無視してるわけじゃあ、ない」
「なら、一緒に食おうぜ。お前も食べられるようにわざわざ砂糖を抑えてだなあ・・・」
この少年結界師の趣味はガラにもなく、お菓子作りなのだ。
力説を始める良守に限は一言。
「そんなの・・・あの女と2人で食えばいいだろう?せっかく好きな女と2人きりになれる機会なんだから・・」
「ひぎゃっふ〜〜!!」
良守が断末魔?の叫びと共に、地面に転げ落ちた。
彼の足場となっていた結界が、消え去ってしまったためだ。
「良守?どうしたの?!」
大きな音を立てて地面に打ち付けられた良守を心配して時音が駆けつけた。
「ちょっと、良守?」
泡を吹いて気絶している良守を抱き上げて、ピタピタと頬を刺激する。
限も一応、良守を心配して、木から飛び降りた。
・・・こいつ、目が覚めたらまた気絶するんじゃないだろうか・・・?
時音に膝枕された良守をみて、限はそう考えた。
どうやら良守は2つ年上の時音を好いているらしく。
彼女のコトになると過剰反応を示して、見ていると飽きない。
出逢った当初。
『時音を馬鹿にすんな!』とか。
『あんな女とはなんだ!』とか。
時音を気遣うことばかりで限に怒っていた。
時音の言葉に一喜一憂して。
良守の反応は好きな女に対しての、というよりは、まるで彼女に調教されているかのようでもある。
とにかく動物的懐き方、と言った方がしっくりくるのだ。
正守が言った『良守と合うと思って』という言葉の意味は、こういうことかと限は思う。
限も良守も、その行動が本能に左右される部分が大きいからだ。
「あ、良守、気がついた?」
やっと目を覚ました良守に、時音が可愛らしく(良守ビジョン)微笑んだ。
「うっ、うわあああ・・・!」
突然目の前に現れた時音の顔に、良守が驚きの悲鳴をあげて。
学園中に響く。
「五月蝿い!」
「ぎゃふ!!」
同時に時音の結界が良守の脳天を直撃して。
良守は再び意識を飛ばした。
・・・やっぱり・・・
限の予想通り、といったところか。
・・・本当にこんな怖え女が好きなのか・・・
確かに、美人ではあるし、女の割りに度胸もあって、それなりに力もある。
だがこの容赦のない良守への態度。
それでも翌日には良守の声が木霊するのだ。
「時音!」
「とーきね!」
「五月蝿い!ついてくんな!」
・・・ほんと、飽きねぇな・・・
日々変わらない追いかけっこを、限は今日もこっそり見守るのだった。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ