頂き物

□幼馴染に10のお題
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二人で過ごした時間




気が付けば傍にいた。
あいつの存在が、いつから自分の中にあったかなんて、今となってはもう思い出せない。
ただ気づけばそこに。
当たり前の風景。
「いた・・」
シャワーを浴びたい、と。
そう言って身体を起こした時音が、小さく呟いた。
ベッドから白い素足を片方だけ下ろして、動きが止まる。
「大丈夫か?」
時音の悲鳴を耳にして、良守が半身を起こした。
ギシ、とベッドが音を立てて。
「平気よ。・・・・・・別に怪我したわけじゃないし・・・」
良守を振り返った時音は、めずらしく頬を染めて。
「あんたは大丈夫なの?」
強気な時音は、反対に良守に問いかける。
「・・俺は平気・・・っていうか・・・・・」
良守が恥ずかしそうに目を伏せて。
「・・・めちゃくちゃ気持ちよかった・・・」
あまりにも正直な良守の感想に、時音は真っ赤になって。
「もっ・・馬鹿・・」
時音はそう小さく呟くと、床に落ちたバスタオルを素早くまとって、そのまま良守をちらりと見ることもなく、浴室へ逃げていった。
「・・・・?」
良守はてっきりいつものように、結界でこづかれるかと思って身構えたのだが。
彼女にしては気弱な反応。
良守は時音の白い背中を見送って。
勢いよく扉が閉められると同時。
再びベッドへ沈んだ。
広いダブルベッド。
そっと手を伸ばす。
シーツにはまだ、時音の温もりが残っていて。
「・・・信じらんねぇ・・・」
良守はぼんやりと呟いた。
それが恋と呼ばれる感情であることを知る前から、気が付けば、彼女のコトばかり考えていた。
時音の一言一言に落ち込んだり、励まされたり。
何度眠れぬ夜をすごしてきたことだろうか。
想いが叶えられてからの日々は、現実のものではないような気がしていた。
初めて交わした口づけは、どんな砂糖菓子よりもあまく。
それが幻でない実感を得たくて、何度か彼女の温もりを求めたけれど。
・・・私がヘンタイみたいで嫌よ・・・
と。
まだ中学生である良守を気にして、時音がそう言うから、ずっと我慢してきたのだ。
良守にとって、年齢をつかれること程、痛いものはない。
しかし、確かに世間一般、良守は子供ではあるが、小さな頃からずっと時音を想ってきた気持ちは、決して幼くはない。
単純に子供だから、と言われて引き下がれる想いではないのだ。
想いが通じたと理解した今、健全な男子である彼にとって、いつまでも我慢ができる状況ではない。
時音との約束は良守が16歳になるまで。
時音と同じ、高校生になるまで。
今日、この日までは、そういう約束であった。
でも。
良守の合格発表。
おめでとう、と時音が嬉しそうにいってくれたから。
何かお祝いしたげるよ、と笑ってくれたから。
勢いにまかせて本音を言ってみた。
―――欲しいものはずっとひとつだけ。
時音は驚いたように大きく瞳を開いて、困ったように微笑んだ。
・・・約束、でしょ?
時音が恥ずかしそうにそう言った。
想像していた通りの時音の答え。
けれど。
もう一度だけ。
願いを口にした。
駄目でもともと、だ。
時音は肩をすくめて。
しょうがないな、と笑ったのだ。
遠くで水音が聞こえる。
想像していたよりも、ずっとほっそりとしていた時音の身体。
「・・・・やべ・・・」
思い出すと熱が戻ってくる。
無我夢中でやり終えた『初体験』。
二人で過ごしたこの数時間。
時音との触れ合いは、良守が想像していた以上の幸福感を生み出して、これまで感じていた一方通行な想いの虚しさが、初めて解消された気がする。
・・・俺、これから我慢できるかな・・・
なんとか欲望を抑えつつ、良守はため息をついた。
ずっと時音とこうなることを望んでいたわけではあるが。
それはただ単なる『想像』にしか過ぎず。
現実に温もりを伴って、具体的にその快楽を知ってしまった、今。
果たしてこの蓄積された想いを、今までのように押さえ込むことができるだろうか。
幸か不幸か、時音とは毎晩一緒、なのだ。
もちろん『仕事』中の余計な雑念を、時音が許すはずもないし、良守自身も少しの気の緩みが命取りであることは、理解している。
烏森の地で二度と誰かが傷つかないように、もっと強くなりたいと願う気持ちも、強く心にある。
しかし、良守は若干15歳。
いわゆる『お年頃』なのである。
好きな女の子と一緒にいて、その気にならない方がおかしい。
「・・・はあ・・・」
良守は熱いため息をついて、シーツに顔を埋めた。
わずかに香る、時音のにおい。
ひとつの悩みが解消されて、また新しい悩みが増えてしまったが。
それはそれで、幸福な良守であった。
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