Dear My HERO !

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人見知りする自分がいつも以上に緊張してしまうのは、きっとこんな派手な格好をしているからだろう。

コスチュームといい、正装として用意された着物といい、どちらもかなり良質な着物を改良して作られているのに、その襟元は大きく開かれていて胸元が強調されていた。

慎み深いという自分の持つ日本人のイメージを自ら崩しているんだから笑うしかない。

とても恥ずかしい…けど、先ほどヒーローとして戦っていた時にはそんな羞恥心忘れ去っていた。

犯人確保後、先輩ヒーローの折紙さんとお話して、自分の格好を思い出し恥ずかしさが舞い戻ってきたのは言うまでもない。


あの後、他のヒーローさんたちに紹介され、緊張しながらも精一杯の笑顔で接した。


第一印象は大事だもんね。人見知りしている場合じゃない!


こんな恥ずかしい格好してるのに今さら恥ずかしがっても仕方ないし…という若干の諦めも働いて、いつもの自分より積極的にお話しできた気がする。




さて、問題はここからだ。



「…どうしよう。やっぱりこの格好まずいかな…」


ショーウィンドウに映った自分の姿を見ながら、自問自答する。


「でも…社長に普段はヒーローだってばれないようにしてって言われてるし…他のヒーローの前では素顔で良いって言われたしなぁ…」


でもなぁ…


「なんだか、がっかりされちゃいそうだなぁ…」


ふぅっとため息を吐くと、不安な足どりでヒーロー専用のトレーニングセンターへと向かった。




Good luck, HERO!




「おはようございます!」


ドアが開いて早々、勢いよく挨拶した。

するとそこにはもうヒーロー全員が集まっていたようで、


パンパーン!

「わぁっ?!」


軽快なクラッカー音と紙吹雪が私を襲った。


「ようこそ、ビーナスくん!!…ん?」

「え?」

「あなた、ビーナス…?」


驚かせられたのは私なのに、私の瞳にはさらに驚いた顔をしたヒーローたちの姿が映った。

やっぱり、驚くよね…

紙吹雪やテープを被った髪は、ヒーローとして現れた時の黒髪長髪ではなく、金色のショートヘア。

しかも服は黒色のシャツに白のセーターベストとスラックス。


「え…ビーナスって…男の子だったの?!」


確かに…この姿は我ながら男性のようだ。


「いえ、女です…」

「嘘…え、む、胸はどうしてんの?!昨日見た時は…」

「あ、胸は…スポンサーから頂いた専用のベストを服の下に付けて隠してるんです。」


普段はさらしで潰してたんだけど…スポンサーから猛反対されてしまって専用のベストを作ってもらった。

だって、運動する時とか邪魔なんだよね、胸…

しかし、このベストすごい…こんなに胸潰してるのに痛くないし、形も崩れにくくしてあるらしい。皆にも気付かれなかったし。

エステ会社と連携しているから体のラインは強調しなきゃいけないらしく、戦闘時はあんなに露出の多い格好を強要されているが、プライベートでは極限露出は避けたい。

もともとは男装してヒーローをやる予定だったんだけど、会議でスポンサーアピールに繋がるようにと今のコスチュームが決定された。

日本からこっちに来る時に髪もばっさり切ってしまったし、会社も姿を隠すためにも普段は男装していた方がなにかと安全だろうと、男性服なども用意してくれた。


「かっこいい…」

「え?」

「かっこいいよ、ビーナス!昨日はすごい綺麗だったけど!今日はすごくかっこいいね!」


黄色いトレーニングウエアを着た少女、おそらくドラゴンキッドさん、が私に近づきながらそう言ってくれる。


「あ、ありがとうございます!」

「確かに…昨日は絶世の美女って感じだったけど、今は美少年ね。素敵じゃない?」

「あ…えっと、ファイヤーエンブレムさん?ありがとうございます。」

「私のことはネイサンでいいわよ、ね?光。」

「あ…ではネイサン!」

「ボクもホァンって呼んでね、光!」

「ホァンちゃん、よろしくね!」


受け入れてもらえて、しかも名前で呼び合えることが嬉しくて私は微笑んだ。

こんな関係いつ以来だろう!


ふと、茫然とこちらを見つめるアメジストの瞳と目が合った。

他の方々の素顔を見るのは今日が初めてだったんだけど、昨日お話した時の声や体型を思い出したら誰がどのヒーローかわかった。

今ここでわかるのは昨日顔を出していたバーナビーさんとアイマスクのみしていたタイガーさん。自己紹介してくれたホァンちゃんに、ネイサン、あとあの女の子がブルーローズさんで、あの大きい人がロックバイソンさん。それで、あの金髪の方がスカイハイさん。

となれば、彼は…


「折紙…さん?」

「あ…どうも…」


名前を呼べば肯定されたけれど、目線は逸らされた。

すごい綺麗な瞳!美少年っていう言葉は私ではなく彼に贈るべき言葉なんじゃないかと思った。

どきっと胸が高鳴ると同時に緊張が走った。


実は…今日一番驚かれる、というかがっかりさせてしまいそうだなと思っていたのは折紙さんだった。

昨日のお披露目会で日本が大好きだと熱く語ってくれていた彼。

かぐや姫の話を熱心に聞いたり、着物や黒髪を褒めてくれた。

けれど私の本当の髪は金髪、しかもショートで、瞳も金色だ。

彼が描く典型的日本人像とはかけ離れていたことだろう。

日本人なのに…とがっかりさせてしまったに違いない。


「あ、あのっ…折紙さん、すみません。」


そう切り出せば、折紙さんは更に驚いた顔をした。


「私…生まれも育ちも日本なんですけど、この通り金髪で…しかも髪も短くしてしまっていて…せっかく昨日褒めていただいたのに、がっかりさせちゃいましたよね?」


「騙したみたいで、すみません」と頭を下げれば、「謝らないでください!」と慌てて声をかけられた。


「金色でとても綺麗ですよ!僕は好きですその色!」


そう言われ、驚いて顔を上げれば「あ…」と漏らし顔を真っ赤にした折紙さんの姿が。


「っ…!!あ、ありがとうございます!折紙さんの瞳の色もとても綺麗ですね!私も大好きです!」


嬉しさのあまりそう言えば、折紙さんは表情を固めて動かなくなってしまった。

あれ…ひょっとして瞳のこととか言われたくなかったんじゃ…

私の脳裏に嫌な思い出が蘇り、背中に汗が流れた。


「あ、あの…折紙さ…うあっ?!」


折紙さんに声をかけようとすると胸を誰かに触られた。

触られたと言っても、ベストの上。

慌てて視線を後に向ければ、その手の犯人はブルーローズさんだった。


「えっ、あの、ブルーローズさん?!」

「こんなベストで胸なんか潰して…アイドルヒーロー舐めるんじゃないわよ!」

「え、す、すみません!?」

「とりあえず、更衣室に行くわよ…来なさいよ」


ぐいっと手を引かれ、ブルーローズさんに引っ張られながら駆け足で歩く。


「あ、あの、ブルーローズさん?!」

「トレーニングの時はベスト脱いで、スポーツブラつけること!!いい?!」

「はっ、はい…!!」

「あと…ブルーローズじゃなくて、カリーナ!」

「え?」

「私の名前よ!わかった、光?!」

「!!…うん、カリーナ!!」


私が嬉しくて笑顔になれば、ブルーローズ…いや、カリーナは顔を赤くして、そしてはにかんだように笑った。






2011/11/22

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