Dear My HERO !
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昨日は興奮して寝付けなかった。
大好きな日本、そしてその日本から来たという黒髪のヒーロー。
彼女はとても美しく、胸が苦しいくらい締め付けられた。
普段は人見知りなくせに、積極的に話しかけてしまったのは、ヒーローマスクの下に羞恥心を押し込めてしまったからだろう。
Which do you like, HERO?
トレーニングルームに一番のりした僕に、次に来たファイヤーエンブレムさんとスカイハイさんがクラッカーを渡した。
「今日ビーナスくんが来たら皆で歓迎してあげよう!きっと喜ぶぞ!」
次第に集まるヒーローたちにサプライズのことを伝え、最後に来るであろうビーナスさんを待つ。
ウィン、とドアが開く音がして、一斉にクラッカーの紐を引っ張った。
パンパーン!
「わぁっ?!」
軽快な音と同時に紙吹雪や紙テープの大群が彼女を襲う。
しかし、ドアの前で呆けていたのは、昨日見た人とは違う人物だった。
輝く金色の短い髪に、大きく見開かれた金色の瞳。
黒いシャツに白のスラックスに白のセーターベスト。
そこに立っていたのは、昨日自分が見た黒髪の美しい妖艶な美女ではなく、爽やかな美少年だった。
がっかり、というより、驚きのあまり声が出ない。
いや、昨日の「彼女」が「彼」だったのではないかと考えた瞬間はものすごく裏切られた気がした気がしたが、話を聞けば彼女は本当に女性で、昨日僕たちが見た抜群のスタイルは今は隠されているだけの話らしい。
昨日は化粧もしていたし、艶やかな衣装で見せられた体からは妖艶さを感じたが、今の彼女は化粧はしておらず、髪型も体型も服装も見るからに男性的で爽やかだ。
長い睫毛に、きめ細やかな肌、金色の瞳と髪が幼い印象を与え、その姿は高校生くらいの美少年にしか見えない。
昨日見た姿は申し分なく綺麗で、その…セクシーで、惹かれたんだけど…今の姿もすごく素敵だ。
昨日見た感じだと、男性からも女性からも今後熱烈な指示を受けそうだし、男装していた方が彼女のプライベートは守られる気がした。
だって、きっと普通に生活してたら美人過ぎて、それだけで危険だ。
最近は行きすぎたファンもいて、ストーカーになる人もいるし…
…でも、あの男装も…
「折紙…さん?」
突然名前を呼ばれて顔を思考を止めれば、金色の瞳がこちらを見つめていた。
「あ…どうも…」
「あ、あのっ…折紙さん、すみません!」
え?
弾かれたように顔を上げれば、金色の瞳が謝っているのが見えた。
「私…生まれも育ちも日本なんですけど、この通り金髪で…しかも髪も短くしてしまっていて…せっかく昨日髪を褒めていただいたのに、がっかりさせちゃいましたよね?」
悲しそうな、どこか泣きそうな顔をした後、「騙したみたいで、すみません」と勢いよく頭を下げた彼女に、「謝らないでください!」と慌てて声をかけた。
「金色でとても綺麗ですよ!僕は好きですその色!」
そう言い終って、自分の言った言葉を頭の中で反芻する。
僕…今、何って言った?
『僕は好きです』
「あ…」と、思わず声が漏れ、顔に熱が一気に集まる。
何てことを僕は…!!
「ありがとうございます!」
恥ずかしさのあまり視線を彷徨わせれば、目の前の彼女が笑顔を見せた。
「折紙さんの瞳の色もとても綺麗ですね!私も大好きです!」
思わず、顔が、体が固まった。
頭が彼女の言った言葉をうまく飲み込めないでいる。
あれ?今僕褒められた?
綺麗って…言われた?
脳が次第に彼女の言葉を理解し始めると、心臓の音がうるさくなり、息苦しくなってきた。
気が付けば、僕の顔は真っ赤で、掌には汗が滲んでいた。
何か言わなきゃ、と口を開いた瞬間、ブルーローズさんがビーナスさんを連れて行ってしまった。
手を引かれながら笑顔を浮かべる彼女は無垢な少年のようで…まるで…
「あらあら、ああやってると恋人同士みたいね。」
ファイヤーエンブレムさんがそう言った一言は自分が考えていたことと同じで、ドキッとさせられた。
…やっぱり、男装も危険なんじゃないのかな?
2011/01/11