うたプリ
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「アイドルって面倒だね」
何気なく出た一言、
でも本音の一言。
その一言がどれくらい浅はかで、どれだけの凶器で、
どれだけあなたの心をえぐるのか、私は知っている。
「…そうだな。」
一瞬見開かれた目が力なく瞼を落とし、再び開かれた。
それでもあなたは口元に笑みを持つのだ。
肯定の言葉を口にしながら、否定するような笑みで、
あなたは私に立ち向かうんだ。
アイドルである己を守るために。
「なぁ…美海。」
「…何?」
「……いや、なんでもない。」
そう言ってまた笑うんだ。
龍也は何も言わない。
言いたいことたくさんあるのに何も言わない。
それが私への優しさだと思っているのかな。
「…顔、緩みすぎじゃないの?」
ため息心地でそう漏らせば、また彼は笑うんだ。
「いや…すまん…」
「本当…『抱かれたい男ナンバー1』、『上司にしたい男ナンバー1』のクールな大人の男『日向龍也』の自覚あるの?」
「それ、お前が言うか?」
少しだけ眉間に皺を寄せた龍也は、不機嫌そうに言った。
「『恋人にしたい女性ナンバー1』、『憧れの女性ナンバー1』、挙句に『抱きたい女ナンバー1』まで取りやがって…俺の気も知らねぇで。」
「そんなこと言われたって…実際に抱かれるわけでもあるまいし。」
「そんな風に見られてるってことは本当だろ。この間『芸能人が選ぶ好きな女性ランキング』でも一位だったらしいな。嶺二もお前に入れたって言ってたぞ。他のやつらも入れたらしい。」
「組織票じゃん。龍也の教え子ばっかり…」
「それだけで一位とれるわけねぇだろ。」
「…いいじゃない。実際私を抱けるのも、私に愛されてるのも龍也一人なんだから」
そう力なく言いきって龍也を見れば、顔が真っ赤に染まっていた。
「…そっ、そうだな!」
「ふっ…硬派なアイドルも形無しね。」
思わず笑ってしまった。
「…美海。」
怒られるかなって思いながら顔を上げれば、真面目な顔をした龍也に抱きしめられた。
「…いいのか、本当に…?」
「…いいよ。ていうか、龍也はいいの?」
「俺は構わない。というか、やっとこの日が来たかってせいせいしてるくらいだ。」
「…二人で干されるかもよ?どうするの?大好きな『アイドル』できなくなったら?」
「その時は『それまでの男』だったってことだろ。むしろ、俺よりお前の方が…」
「…愚問ね。私がこんなことぐらいで地に堕ちるとでもお思い?」
「…それは…何の真似だ?」
「この間やった洋画の吹き替えの台詞。女王様キャラだったよ。」
「ふっ…じゃあ、問題ないな。」
龍也が体を離して静かに笑った。
その瞳にはもう迷いも憂いも無かった。
「…あーあ、本当にアイドルって面倒。」
「そうか?」
「そうだよ。言いたいことも言えないなんて。」
「そうだな…でも、アイドルになってなきゃお前に逢えなかった。それに…」
そう言うと、龍也は私の耳に唇を寄せた。
「今日からは『美海は俺の恋人だ』って堂々と言えるんだ。」
顔を離した龍也は本当に嬉しそうに笑って、私の唇に口付けを落とす。
甘い口付けを感じながら瞳を閉じれば、二人しかいない部屋の静寂が耳を襲った。
パンドラの箱
あと一時間もすれば、世の中は大騒ぎ。
私たちは今からパンドラの箱を開くんだ。
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トップアイドル×トップアイドル
パパラッチされて事務所が差し押さえてたけど、もう隠しておくのは嫌だなーと思ってた美海さんと、身を固めたいけど美海さんの将来を考えて言いだせなかった龍也さんと、差し押さえてるけど二人ならマイナスにならないんじゃないですカー?って考えて二人に決断を任せた社長…の話。
2013/05/27