うたプリ

□★
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「久々だな…」


見慣れた景観に、笑みが溢れる。

自分が生まれ育った町に帰ってきたんだ。

と言っても、一時的な帰省に他ならない。

明日になればまた『いつもの場所』に戻るんだ。


「お…懐かしいな。ここでよく遊んだな」


俺の遊び相手はほとんど弟たちだった。

年の近い者たちとはいつも喧嘩ばかりだった。

昔と変わらぬ公園に目をやれば、昔の自分と弟と、弟と年の近い少女の姿が思い出された。

近所に住んでた少女はいつも1人で遊んでいた。

一緒に遊ぶようになったのはいつの頃か。

俺が荒れてからは疎遠になったが、俺が荒れてからも笑顔を向ける女はあいつぐらいだった。


「…今、どうしてるんだろな。」


遠い空に目を向けながら、足を前に踏み出した瞬間、

どんっ


正面に感じた衝撃。


「わっ」
「きゃっ」


俺は無意識に手を出し、正面で揺れた紺色を止めた。

思った以上に柔らかいそれが女の腕だと認識したのは、艶やかな黒髪が揺れて甘い薫りが鼻を擽った時だった。


「っ!すみません、大丈夫でしたか?」

「あっ、はい…あれ?龍也、くん?」

「えっ?」


名前を呼ばれて改めて女性を見たが、一瞬誰だかわからず、視線が固まる。


「忘れちゃった?美海だよ。」

「っ!美海!?」

「久しぶりだね、龍也くん。」


そう言って笑った彼女は少女から女性に成長していて、まだあどけなさが少し残るがとても綺麗だった。

ふわりとした笑顔にどくんと胸が高鳴った。


「悪い…美人になってたから、すぐわかんなかった…」

「あはは!龍也くんってばうまく逃げたね!」

「いや、マジで……綺麗になったな。」

「ふふっ、ありがとう。そんなに誉められたら照れちゃうなー!」


元々彼女はかわいらしい少女だった。

泣き虫で、荒れてた俺にも屈託なく接してきていた美海が、今『女性』として俺の前に立っていた。


「それにしても…龍也くんが帰ってくるなんて珍しいね!」

「あぁ、久々に2日休みもらえたからな。」

「龍也くんってば全然帰ってこないんだもん!」

「悪い…今、高校三年生、か?」

「そうだよー!」


制服を見せるようにくるっと回ってみせる美海。

紺色のブレザーに赤いチェックの入ったスカート。

膝が丸見えのスカートがふわりと浮くもんだから、柄にもなく胸が跳ねた。

あどけなく笑う彼女は、容姿は変わったが内面は昔の彼女のままのようだった。

いつも俺の側で笑っていて、いつも俺を受け入れてくれる。


「お前は、変わらないな…」


そう言って思わず昔のように頭を撫でた。

その瞬間、彼女が目を伏せた。


「…龍也くんは…変わっちゃったね…」

「ん?」

「今や人気アイドルだもん。」


「はい」と言って、落ちたカモフラージュ用のサングラスを拾い渡された。


「昔はこの辺りをまとめる番長だったのに、今は『ケンカの王子様』だもんね。」

「ははっ、懐かしいな『番長』。気がついたら成り上がってて…後先考えないバカだったな、俺。」

「……」

「…?美海?」


隣を歩く美海の足が止まり、振り向けば彼女は俯いていた。


「私は…」

「あっ!番長!!」

「!?」


野太い声が聞こえて、美海から視線を背後に向ければ柄の悪そうな野郎共の集団がこっちに険しい眼差しを向けていた。

俺が街を離れてだいぶ経つ。

と、なれば、俺のかつての舎弟たちではないだろう。

逆に俺に恨みをもつグループの後輩のやつらか。

数年前にも帰省した際に絡まれたことがあり、それを思い出して眉間に皺が寄った。


「っ…おい、美海…」


昔と違うから暴力沙汰は避けたい。

何より美海を巻き込むわけにはいけない。

そう思い美海を見たが、美海は俺の脇を俯いたまま通り抜けた。


「今の龍也くんはすごくキラキラしてるよ。」

「お、おいっ」

「でも、私は前の龍也くんの方が好きだったんだ。もっとギラギラしてたもん。」


その一言に、彼女に伸ばしてた腕がピクリと震えた。


今、こいつはなんて言ったんだ?


柄の悪い野郎共の集団に向かってゆっくり歩む彼女の背中を茫然と見つめていると、艶やかな黒髪が揺れた。


「さっき、龍也くんは私に『変わってない』って言ったけど、私も少しだけ変わったんだよ?」


振り向いた美海が口角を少し上げて楽しそうに言った。



「「「お疲れ様です、香坂番長!!!!」」」


「!!!?」


野太い声が綺麗に重なり、先程までこちらに威嚇していたやつらが目の前の美海に深々と頭を下げた。

なんと異様な光景だろう。

頭が鈍器で殴られたように痛い。

かつて可憐に笑っていた少女はその面影を残しつつ、妖艶な女の笑みを俺に向けた。



「おかえりなさい、元・番長。」





桃源郷の崩壊





「兄ちゃんおかえりー……ってなんで顔面蒼白!?涙目!?具合悪いのか!?」

「っ…美海がっ…!!」

「あっ…そっか…兄ちゃんは知らなかったよな。あいつ、昔この辺を治めてた番長に憧れてるんだ。」

「なっ!?」

「あっ!でも安心しろよ!!美海は名門女子高に通ってて成績も一番らしいし。ついでに空手も強くて、喧嘩も負け知らずだし…」

「っ…!!」

「えっ!?かっ、母さーん!!兄ちゃんが倒れた!!」



「(誰か嘘だと言ってくれ)」







*****************




番長龍也に憧れて強くなっちゃった系女子高生。

最近の番長は頭もよくなきゃね?ということで頭もいいですが、基本力技での制圧が多い…っていう設定。

龍也さんを困らせあせらせ隊←


2013/06/26

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