檜佐木修兵 短編
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視線を反らしながら、光はそう小さな声で言った。
「…ただ…眠れなかっただけ。ごめんね、仕事続けて…?」
光はそう言うと、布団を頭まで被った。
それに修兵は怪訝な表情を浮かべたが、どうしていいのかわからず、取り合えず机の前に戻り、先程のように座った。
ちらりと後の布団を見る。
光が静かになった。
頭まで布団を被っているから確信は持てないが、静かになったので眠ったのだろうかと思い、再び前を向きなおした。
筆を持ち、丁寧に墨をつけて、紙に文字を綴る。
作業をしながらも、やはり光のことが気にかかり、彼女の眠れなかった理由について考えてしまう。
体調が悪いわけではない。
灯りが眩しいのではない。
じゃあ何故?
ふと次の言葉を書こうと、筆先を紙につけようとした、
その殺那、
修兵は、はっとしたように体の動きを止めた。
そして神経をあるモノに集中させる。
「……成程。」
ふっと笑うと、修兵は立ち上がり、部屋の灯りを消した。
突然消えた灯りに気が付き、光はそっと布団から頭を出した。
今、部屋を灯すのは、枕元にある微かな灯り一つだけ。
その灯りを見つめていた光だったが、すぐに自身の隣に視線を移した。
「……修兵?」
自分の隣、つまりは同じ布団に何も言わず、修兵が入ってきた。
「仕事…」
「ん?」
「仕事、もう終わったの?」
「まだだけど?」
おずおずと尋ねる光の隣にすっぽり入り、修兵はさらりとそう言い放った。
「え…な、何で?」
修兵は左手で自分の頭を支え、腕枕をした体勢で、自由な右手で光に布団をかけ直してやった。
そして布団を引き上げた右手を、戸惑う光の頬にやり、優しく滑らせた。
「光と一緒に寝たいなって思ったんだよ。」
仕事は明日すればいいし、と笑いながら言ったら、光の顔が戸惑った表情を浮かべた。
「っ……ごめん……」
辛そうな顔をした光。
修兵は「バカ」と笑いながら言って、光をそっと抱き寄せた。
その時
ピカッと強烈な光が外で起こり、
光が突如、修兵の胸に顔を埋めてきた。
眩い閃光の後、数秒して遠くでゴロゴロと、雷の大きい音が響いた。
「…大丈夫だって。」
「っ……」
光をしっかりと抱き締めてやると、光は修兵にしっかりとしがみついた。
「……無理すんなよ。」
ゴロゴロと天上に響く音をかき消すように、光の耳元で囁く。
「……気付くの遅くてごめんな。」
「っ……」
優しく頭を撫でながら修兵がそう言うと、光がふるふると頭を左右に振った。
その時、再び外が眩く光った。
それにびくりと肩を震わせ、きつく修兵にしがみつく光。
「光」
修兵はその瞬間、
きつく瞳閉じた光の両耳を自身の両手で塞ぐようにして、
柔らかな唇に口付けを落とした。
それに驚いた光は瞳を開けたが、恐怖からか再び瞳を閉じた。
ドーンと激しい音が外に響いたが、修兵が耳を塞いでいたためか、思った程の音は光には届かなかった。
「っ…はぁ…修兵……」
唇を離すと、うるんだ光の瞳が修兵の顔を映した。
「……雷」
「ぇ?」
「相変わらず怖いんだな。」
苦笑いしながら、修兵が光の頭を撫でて言った。
「だから眠れなかったんだろ?」
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