檜佐木修兵 短編

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事の発端は





「痒い」





そんな彼女の一言だった







僕による僕のための防虫対策






「痒い!」


「ん?」




久々の休日で、家でのんびりと過ごしていた。




朝夕は冷えるもの、昼間は秋とは思えない程の暖かさで、日溜まりの中にいるには熱すぎた。



座って本を読む俺の隣に寄りかかるように座っていた彼女が、うつらうつらと眠りに落ちるような天気の良い午後。



うとうとした最愛の彼女の頭がコテンと肩に持たれかかってきたので、きっと眠ってしまったのだろうと




思ってから約15分後の話。


「……ん…」

「ん?」

「………ぃ」

「…光?起きたのか?」

「……」

「……?」



斜め上から見下ろすように愛しい彼女を見る。



俺の彼女の光。



世界で一番可愛いと思うのは俺の欲目だろうか?



長い睫を伏せた瞳がぱちりと開いた。



開いたと同時に言葉がはっきりと発せられた。



「かゆい」


「…は?」


「痒い!」




一体何が起こったのだろうかと、びっくりして隣の光を見る。



見ると、光は右腕をポリポリと指で掻き始めた。



「うー!何か痒いよ〜!」



まだ眠いのか、機嫌が悪そうな、子供がぐずったかのような表情をする光。



しきりに動く手を見ると、右の二の腕に赤い斑点が1つあった。



白い光の肌に薄紅の腫れが目立つ。




「虫に刺されたのか?」


「わかんない、でも痒いー!」


まだ腕を掻いてる光。


俺は焦って光の腕を捕える。



「おい、そんなに掻いたら血が…!」



じわっ



「ありゃ…(汗)」


「あー…ほら、血が…(汗)」



明らかに虫に刺された時に出来る腫れから、じわりと紅い血が浮かんだ。


「折角綺麗な肌なのに…傷つけんなよ」

「だって…痒かったんだもん…」



怒ったわけじゃないんだが…光はしゅんとしてしまった。



「うー…」



まだ痒いらしく、でも掻くのを我慢しているらしい光。



俺はそんな光の腕をそっと持ち上げる。


「…修兵?」




ちゅっ…




「狽ヲ?!ちょっ、修兵?///」




唇で触れるように、そっと光の肌に口付けた。


血を吸い取ると、わずかではあるが鉄の味が口内に広がった。



美味いとは思わないが、この味が光の味ならばまったく嫌ではなかった。


「やっ…汚いから!///」

「汚くない」


「っ…///」


「……消毒」



ぴくりと光の腕が震えたから、俺もそっと唇を離した。



光の肌は柔らかくて細やかで、


口付けした唇が熱を持つ。



顔を光に向けると、頬を染めた光と目があった。


「…薬、つけてやるな」


俺は光の頭にポンと手を置いて、立ち上がると薬箱を取りに行く。




ダメだ、可愛すぎる(汗)///


光の肌、瞳…


すべてに自分が惹き付けられている。



恐ろしいと思う。


恐ろしい程の光の魅力。


恐ろしい程の自分の独占欲。



肌に触れた自分の体が熱を持つ。



我慢が効かなくなるのを抑制する。


薬箱からかゆみ止めの薬の小さな入れ物を手に持ち、光の元に戻る。



座って上目使いでこっちを見る光に、愛しさが込み上げる。



あぁ、もう




そんな可愛い顔をしないでくれ……



「もぅ…修兵、吸血鬼みたい…」

「吸血鬼?」


さっき光の血を吸い取ったからか、恥ずかしそうに光がそう呟いた。


俺はその発想になるほどなと感心しながらも笑いながら、薬の瓶の蓋を開けた。

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