檜佐木修兵 短編

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「ほら、腕出して」

「え…いいよ、自分で塗るから!」

「いいから、ほら」

「う…はぃ…///」

「少し染みるかもしれねぇけど…」

「ううん、大丈夫」


少量指に掬って、刺された部分に塗った。


「…ありがと///」


「どういたしまして」


微かに笑いながらそう言うと、薬の蓋を閉めた。



ふと光の首に目を向けると



「光…お前、首…」

「え?首?」



本人も気が付いてなかったらしい。



首筋に顔を少し近付けて見てみると、腫れてはないものの小さな紅い斑点が1つ浮かんでいるのが見えた。


でも、これって……


「……」

「?修兵…?」



何か……




「……キスマークみたいだな」

「え?」



光の首筋のそれは間違いなく虫に刺された跡なんだけど、



ちょっと遠目に見ると、白い肌に浮かぶ紅いその一点が、まるできつく口付けた後に残る「跡」に見える。



「……」

「…しゅ、修兵?」



ちゅうっ


「狽チ…?!///」



俺は光の首筋に吸い付いた。



びくんと、光の肩が震えた。



虫につけられた跡の隣に口付けた。



唇を離すと、虫刺されの跡よりも紅い跡がじんわりと浮かんできた。



「修兵?どうしたの?」


「ん?気にするな、ただの虫避けだ」


「『虫避け』?」


「そう、防虫対策」





そう、これは『防虫対策』




虫なんかに光の綺麗な肌に触れてほしくない。


光に傷も痣もつけさせたくない。



だから虫が刺した跡よりも紅い『俺の跡』を光の肌に残す。




虫なんかに負けたくない…



ちゅっ


「ちょっ、しゅ、修…!///」



ちゅっ、ちゅ…



「っ…!///」




首筋、腕、鎖骨…



エスカレートしていく俺の口付けに、光は真っ赤になりながらも僅かな抵抗しか見せない。



俺は光の肌にどんどん跡を残していく。




俺の印。



俺が愛した印。



俺だけの物にしたいという、欲望の跡。




虫に負けたくない



そして



周りにうようよいる『悪い虫』にわからせてやりたい。




光は俺の恋人だ。


誰にも渡すつもりはねぇ。



そう、これは『俺による俺のための防虫対策』だ。



『悪い虫』は近寄らせない。



もちろん、光に邪な感情を持って近寄る男共は皆『悪い虫』。




例えそれが本物の虫だろうと、許さねぇけど。



光の肌も血も



全部、ぜんぶ



光と俺だけのものにしたい。



さっき光が俺のことを「吸血鬼」だなんて言ったけど、



光のためなら何にだってなれる気がする。



血が吸いたいわけでも何でもないが、光専用吸血鬼ってのも悪くはない。



お前の首筋に顔を埋めるのは、


口付けるのは俺だけでいい。




またこの跡が消える前に、きっと俺は新しい跡をつけるだろう。





俺の欲望だけのための口付けの跡。



紅いそれは、俺の想いの証。



俺による俺だけのための防虫対策。




誰も光に触れさせたくねぇ…




光を愛して、


愛しすぎて



この気持ちは最早・末期状態。




愛情と独占欲。



それらすべてが俺を苦しめる。



防虫対策は光のためではあるが、大半が俺のため。



我ながら呆れるほどの独占欲の強さ。





我儘な俺を許してくれ。






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