Free!

□2
1ページ/1ページ



セミの音が耳に響く。

『宗介ー!今日勝負しようぜー』
『おう!負けたらアイスおごりな!』

子供のころの自分たちの姿がふっとあらわれて、そしてまばゆい光の中に消えていった。


「よーし、席付けー!今日からうちのクラスにきた転校生を紹介するぞー」

先生の声に教室がざわついたが、転校生が入ってきた瞬間静まり返った。

そこでようやく、俺の意識が現実に戻った。

「よし、じゃあ自己紹介をして」

先生の声が耳に入り、俺もゆっくりと視界を前に向けると、黒板の前に立った女子生徒に目が留まった。

「…西園寺涼です。よろしくお願いします。」

少し緊張した面持ちの転校生は、大人しそうな女の子だった。

なるほど、田中が言うのもわかるな。

高校デビューしてケバイ化粧をしている女子とは違い、清楚なタイプ。

少し幼さも残したきれいな顔とか、結構俺好み…

…って何考えてるんだ、俺。

田中と俺のタイプって似てたのか…

あいつはもっと派手な女が好きかと思ってた。

なんだかもやもやした気持ちになり、窓の外に目を向ければ

「じゃあ、席は一番後ろで」

と先生の声が聞こえた。

転校生は一番後ろの席か…


…一番後ろ?


待てよ、一番後ろって…

そう思ってはじかれたように頬杖を崩せば、俺の右隣の席がガタッと音を立てた。

「あ…よろしくお願いします。」

「…こちらこそ」

相変わらず緊張した面持ちの彼女が俺に軽く会釈した。

俺もそれに答えると

「よし、じゃあホームルーム始めるぞー!」

担任の声が響き、彼女は慌てて前を向いた。

「さっそくだが、1時間目の英語は自習だそうだ。担当の大木先生が体調不良で休みだからな。後で日直はプリント取りに来るようにー」

再びクラスが喜びをはらんだ声でざわつく。

「よかったー!俺課題忘れててさー」という声が聞こえ、そういえば俺も課題を終わらせてなかったことを思い出した。


「(今日はツイてる…のか?)」


転校生の横顔をちらりと盗み見て、頬杖をついて再び外へ視線を戻した。

外では相変わらずセミがないていた。


一生忘れられない夏が始まるなんて

この時の俺はまだ知らなかった。






2014.09.14







[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ