BBB
□Bitter and Sweet
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※ レオナルド視点
「おはようございまー……ザップさん、また負けたんっすか?」
朝、いつものように出社すると、床に寝そべっているザップさんが視界に入った。
「るせー」と呟いてごろんと寝返りをうつが起きる気配がない。
この人はよく床に寝そべっている。
いや、「のされている」といった方が的確か。
僕がこのライブラ社に入社して暫く経つが、この先輩は毎回クラウスさんに突然かつ一方的に勝負(?)を仕掛け、あっさりと捕まり、こうして床に押し付けられてしまうのだ。
毎度毎度よくやるよなー
そう思いながら、ソファーに座ると、ふわりと良い香りが漂ってきた。
「レオくん、おはようございます!ちょうど今コーヒーを淹れたんですよ!」
「マリアさん、おはようございます。いただきます。」
トレイにコーヒーの入ったカップを乗せて入ってきたのは、マリアさん。
僕より年上で、優しくて、料理が上手。
いつもあたたかい笑顔で僕たちを癒してくれるライブラの良心的存在だ。
普段は僕たちのサポート的業務をしてくれているが、彼女もまたその体に力を秘めているらしい…けど、そんな風には見えない。
でも現実は現実だ。
「はい、お兄ちゃん。」
「ありがとう、マリア。」
そう、彼女は、あのクラウスさんの妹なのだ。
だから、まだ力を見たことはないけど、何か秘めていてもおかしくはない。
「おはようございます、スティーブンさん。コーヒーはいかが?」
「おはようマリア。これはいい香りだね。いただくよ。」
スティーブンさんがコーヒーを受け取って、僕の隣に座った。
スティーブンさんに向けていた目を戻せば、彼女は床に転がっているザップさんの頬を指で突いているようだった。
「おはようございます、ザップ。」
「…おう。頬つっつくな。」
「コーヒー淹れましたよ?飲みませんか?」
「…そこに置いとけよ。」
「危ないからテーブルに置いてます。それより、起きてください。かっこいい服が汚れちゃいます。」
なんだか母親と子供のような会話だ。
「うるせーな」とか言うかと思いきや、素直に起き上ったザップさん。
やはり彼女はライブラの良心であり、聖母なのだろう。
「ザップさん、毎日飽きずによく挑戦しますねー。なんか恨みでもあるんすかね?」
クラウスさんが恨みを買うような人ではないのは百も承知しているが、冗談交じりでそう言葉にすれば、隣にいたスティーブンさんがクッと笑いを零した。
「えっ?まさか、本当に恨みが…」
「いや、すまない。そうか、君はまだ知らなかったか。」
笑みを含みながらスティーブンさんは続けた。
「以前クラウスと話をしている時に聞いてみたんだ。『マリアに恋人ができたらどうするんだ?』ってね。」
「はぁ…」
「クラウスは『自分よりマリアを守れるような強い男なら認めます』と答えた。」
「あぁ…納得です」
クラウスさんはマリアさんを溺愛しているし、父親のように育ててきたと聞いているから納得せざるを得ない。
「それからだよ、ザップがクラウスに勝負を挑むようになったのは。」
勝負…というか、不意に襲ってるし、闇討ちとか、野生のサルが襲ってきている感じに近いんじゃ…
「…ん?」
「うん?」
「…あの…それってつまり…?」
「なんだ。存外、君も鈍いようだね。」
少し笑って、スティーブンさんはコーヒーを優雅にすすった。
僕は弾かれたようにザップさんに目を向ける。
ちょうどザップさんの頬についていた汚れをマリアさんがハンカチで拭ってあげているようだった。
彼女が優しく微笑むと、ザップさんの頬が少し赤く色づいたように見えたが、あれはハンカチで擦りすぎたからじゃないだろう。
一瞬ですべてが腑に落ちて、手に持ったカップにようやく口を付ける。
あ…これ、うまい。
「今日のコーヒーはザップのお気に入りの豆で淹れたんですよ!早く飲みましょう!」
彼女の声を聴きながら飲んだコーヒーは、ブラックなのに甘く感じた。
Bitter and Sweet
「まぁ…彼女はその件は知らないし、奴の気持ちにも気づいてないんだろうけどね。」
「…でしょうね。」
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ザップさん初夢。ザップ沼に落ちました。
他者視点のお話ほど書き易く、甘酸っぱい気がするのはなぜでしょうか。
2015/05/15