BBB

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「レオ君、甘いモノ食べれる?」

お湯を注ぐと豆の香ばしい香りが広がる。
お気に入りの豆でコーヒーを淹れながら、少し離れたところにいるレオ君に声をかければ、彼は「はい」と元気に声を返した。

「実はクッキー焼いてきたの。あんまりたくさんはないから、二人で食べちゃおう?」
「はーい!手伝いますよ!」
「ありがとう。じゃあ、これテーブルに運んで?」

今は社に二人でお留守番中。
クラウスさんとギルベルトさんは今日はお仕事で出てるし、他のメンバーもそれぞれに出払ってていない。
私の仕事がひと段落ついたところにレオ君が現れたので、休憩をするところだったのだ。

一人で静かに仕事していたけど、やっぱりお茶の時間くらい誰かと楽しく過ごしたいよね。

ドリップし終わったコーヒーをカップに注ぎ、レオ君に渡すと彼が「いい香りっすね!」とほほ笑むものだから、私までうれしくなってしまう。

弟がいたらこんな感じなのかな。

そう考えながら、皿に広げたクッキーに手を伸ばし、口に運ぶ。
うん、今回はいい感じに焼けたかな。
でも、他人の、しかも自分の作ったものを初めて口にする人の評価は、やはり気になる。

クッキーをつまみ、「いただきまーす」と口に運んだ彼の表情をドキドキしながら見つめれば、「うまい!」と顔がほころんだので、私もほっと息をついた。

「お菓子作るの上手なんすね!」
「よく作るのはクッキーくらいだよ。でも、そう言ってもらえるとうれしいなぁ。」

パクパクと食べてくれる彼を見て、心が温かくなる。
自分が作ったものをおいしいって言いながらどんどん食べてもらえると、本当にうれしい。

「マリアさんっていい奥さんになりそうっすね!」
「本当?ありがとう!」

レオ君って素直だし、純粋だな~
意識されてない言葉だとわかっていても少し照れてしまう。

「そういえば…レオ君は、好きな人とかいないの?」
「ぶふっ!」
「わっ!!大丈夫?!」

噴出してしまった彼に慌ててタオルを取ってきて渡す。
顔を吹いているから表情は見えないけど、タオルに隠れていない耳は赤くなっていた。

「好きな人、いるんだね。」
「ち、違うんです‼そういう関係じゃなくて、ただの友達で…!」

あわあわと手を激しく振るレオ君の姿があまりにかわいくて、つい笑みを漏らすと、さらに彼は顔を赤く染めた。

「レオ君ってば、かわいいね!」
「かわっ……?!」
「あっ…ご、ごめん。かわいいって男の人には褒め言葉にならないよね…」
「いえ…その、マリアさんはどうなんですか?」
「え?」
「恋人いるんですか?」
「私はいないよー。モテないしね。」

けらけら笑ってみせたが、不意に虚しさがよぎる。
そうだ、これでもいい年頃だ。
恋の一つや二つしていてもおかしくないのに、仕事が仕事だし、仕事以外での男性とのつながりは少ない。
たまに街や店で声をかけられることはあるけど、なんだか裏がありそうだし、親密になる前に自分から身を引いてしまう。
それに、一般の人の近くにいては、迷惑をかけてしまうかもしれないし…

「そうですか?モテそうですけどね」
「ううん、そんなことないんだー。たまに変わった人には好かれるみたいだけどね…」

以前に、一時的に男性にまとわりつかれたことがあったが、私が対処する前にストーカー行為もなくなったので、変わった人にも飽きられてしまうような人間なのだろう。

「ザップさんとは付き合わないんですか?」
「ぶふっ!」
「だっ大丈夫ですか!?」
「げほげほっ…ごめ、大丈夫…ていうか、誰があんなセクハラ野郎なんかと…‼」

「だーれがセクハラ野郎だって?」

背後でよく響く声がして、あまりの驚きにびくりと肩が跳ねた。

「ザップさん!いつの間に来たんっすか?」
「おー。今来たとこだ。ところで、何してんだお前ら?俺の話してただろ?」

私のソファーの背もたれに腕を置き、完全に私の背後をマークされてる。
かく言う私は、あまりの驚きに咳込み続けていた。

「今、マリアさんに恋人がいるか聞いてたんです。」
「あー?いるわけないだろコイツに。」
「っ…」

咳が止まるほどの衝撃だ。

いるわけないか…そうだよね。
チェインさんみたいに美人でもないし、ザップさんが遊んでる女の人たちみたいに色気とかないし、何より一般の人にも飽きられてしまうくらいおもしろみや魅力のない人間なんだ。

そう思うと顔に熱がこみ上げてきて、咳き込んだ時に俯けた顔を上げられないでいた。

「コイツ、粘着質なストーカー野郎に好かれやすくってな。恋人なんかいたら、ストーカー野郎に焼き入れられてるか、その恋人がコイツのストーカーになってるかだよ。」

…ん?
今なんて言いました?

弾かれたように顔を上げると、きょとんとした顔のザップさんと目があった。

「…なんで…知ってるんですか…?」
「あ?ストーカーのことか?たまたまお前の後ろコソコソつけてたやつ見つけたから、二度と来んなって言っといたけど、あいつストーカーだったんだろ?」

まさか…あの時ストーカーがなくなったのは…ザップさんのおかげだったの?

驚きのあまり、声が出ない。
ただ目を開いて見つめていると

「…んだよ…余計なことするなってか?」

とふてくされたような顔をして、私の額を軽く指で小突いた。

「…いいえ、あの…ありがとうございました。」
「おう。…おっ!クッキーあるじゃねぇか!おい、茶、淹れろよ。」
「はい…」

私はすぐに立ち上がって、給湯室のある方へ小走りで向かった。

「…なんだぁ、あいつ?」
「ザップさんの乱暴さに呆れてるんじゃないっすか?」
「あぁ?テメェ、クッキー全部よこせ‼」
「あーー‼まだ俺一枚しかっ‼」

にぎやかな声から離れていく。

ザップさんはセクハラ野郎で、女遊びが好きな節操なしだ。
だから、本当に、たまたま見かけて不審者に声をかけてくれただけに過ぎないはずだ。

でも…あの人は、本当はとても仲間思いだし、人としての性根は腐ってないのは知っている。
だから、もしかして、気にかけてくれていたんじゃないかって思ってしまうんだ。

「心配してくれてたのかな…」

そうだとしたら、うれしい。
コーヒーを淹れながら、思わず目頭が熱くなったのは私だけの秘密。


ちょっと見直しました


「ていうか、ザップさん、偶然とか言ってましたけど、ストーカーに気付いてマリアさんを尾行してたんでしょ?」
「あん?そんなんじゃねぇよ!…金ねぇからあいつに飯作ってもらおうと思って、追いかけてたらたまたまストーカー野郎見つけたからボコッただけだよ。まぁそいつから慰謝料もらったんでその日はいい女はべらせて、うまいもん食えたぜ?」
「最低だこの人‼」

前言撤回…やっぱり最低だこいつ。

私はコーヒーを乗せていたトレイをザップさんの頭にたたきつけた。




*******


続いた。真相やいかに。


2015/05/16


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