BBB

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「聞いたよ、マリア。実におめでとう!」
「……何がですか?」

お使いから帰ってきたら、スティーブンさんがいそいそとこちらに向かってきて、手をがっしりつかまれた。
何のことか皆目見当がつかない。
そしてこの人の手は冷たい。

「またまた!水臭いじゃないか!ザップの奴と付き合ってるんだろ?」
「…はぁっ?!」

思考が一瞬止まりかけたが猛スピードで動き出した結果、制御できずに大きい声が飛び出てきた。
何言ってんのこの人!?

「なんだ?違うのか?」
「違います!っていうか知りませんよ、そんな話!誰から聞いたんですか!?」
「いや、さっきチェインがそんな話をしていたものだから」
「チェインさん?!」

チェインさんは人狼。
有能で、さばさばしているけどやさしい先輩だ。
私にもよくしてくれるし、ザップさんにセクハラされている私を助けてくれるすごくありがたい人なのに…どうして…

「チェインさん、なんて言ってたんですか?」
「あぁ、確か……

『ザップが今日のパーティーのパートナーをマリアに変えろと言ってきました。私だってあんな猿と一緒なんて嫌ですけど、マリアを行かせるわけにはいかないと思って断ったんです。でも、アイツが「今日のパーティーは恋人同士の方が都合いいんだよ、女!気ぃ使え!」って言って、すぐに電話切られて‼スティーブンさん、何か聞いてますか‼?』

…ってすごい剣幕で言ってきてね。もちろん、そんな話は聞いてなかったけど、それが事実ならおめでたいことだし、僕たちも協力しようと思ってね!」

…まったく話が見えない。

「今日のパーティーって、潜入捜査のやつですか?」
「そう。例の麻薬の出どころを調べるために、裏とつながっている可能性のある伯爵家主催のパーティーに潜入してほしくてね。クラウスに行ってもらう予定だったが、彼は今日帰ってこられないらしいから、ザップとチェインに急きょ頼んだんだが…パートナー同伴必須のパーティーだったからね。正直あの二人で大丈夫かと心配していたんだよ。」

確かに、犬猿の仲の二人だ。
どこかで喧嘩になってしまいそうなのはわかる。
わかるけど…

「仕事でしたら断わりたくありませんけど、そもそも恋人同士ではありませんし、何よりザップさんと一緒は不安です!いろんな意味で!」

あの人どう見ても不良青年じゃん!
そんなフォーマルなパーティーで潜入調査とか向いてないよ!
あと、さすがに仕事中に何かするとは思えないけど、あらぬ誤解を生んでまでも私を指名してきたあたり裏がありそうで怖い。

「というか、スティーブンさんが行けばいいんじゃないですか?!」

「それが、俺は別件で動かなくては行けなくてね。なに、電話は通じるようにしておくから、緊急事態には電話してくれてかまわないから」
「緊急事態って…」

どこまでが緊急事態ですかね?

「っ…チェインさんに電話します!」
「アイツならもう別件で動いてるから無理だぞ」

携帯を取り出したその瞬間、バンっとドアが開く音がして、どかどかと入ってきた男。

「ざっ…ザップさん…」

手には大きい紙袋や布袋に包まれたものなど、たくさんの荷物を抱えていた。
突然の登場になぜか私が慌てていると、私に荷物を押し付けた。

「ちょっ!?」
「さっさとこれに着替えろ。」
「え?…これって」
「早くしろ。パーティーに間に合わねぇぞ。」

そういうと、ザップさんは親指で奥の部屋を指した。
向こうで着替えて来いということだろ。
どうしようと迷っていると、ザップさんは紙袋を持ってレストルームに向かっていってしまった。

「パーティーは19時からだ。あと2時間もないからな。急ぎたまえ。」

他人事のように言うスティーブンさんを恨めしそうに見上げると、彼は笑ってこう言うのだ。

「今日のパーティー会場は三ツ星ホテルだ。有名シェフが腕をふるった料理を出すらしいよ。おいしいものをたくさん食べておいで。」


食べ物でつられません


だけど、仕事だしな…

「…アイスもありますか?」
「…帰りにザップに買わせよう。」

私はため息をつくと、荷物を抱えて別室のドアを開いた。



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2015/09/28



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