BBB
□1+1=1
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父親は平均的だった。
母親も平均的だった。
だから、俺も平均的に成長すると思ってた。
でも、俺は男だけど母親似だった。
それを恨んだことないが、こうも違うと悲しくなってくる。
どうして、俺はチビなんだろう。
「レオ?」
見つめていた背中が立ち止まって振り返って、俺の名前を呼んだ。
「あ…」
どうしよう、目が合った。
顔を見上げている俺と見下ろしている彼女の差は15センチ。
手で表せば小さい差も、身長にしてみれば大違いだ。
俺はたまらず俯いて視線を無理やり彼女から外した。
彼女、マリアの身長は高い。
K・Kさんほどではないけど、チェインさんより高い。
加えてヒールを履いているから、身長差は開くばかりだ。
それとともに心の距離が遠くなっている気がするのは、俺にコンプレックスがあるからだろう。
今まで女性の身長なんて気になったことなんてない。
この街では身長が高い人が多いし、現にライブラの皆も男女ともに身長が高いからそれが普通と思っていたし、それで自分を嫌に思うことはなかった。
それが今ではどうだろう。
身長が高くモデルのようで大人っぽいマリアと、チビで少年と言われるのがぴったりな俺。
同い年とは到底思えない。
何が違うかなんて言われたら遺伝子としか思えない。
両親を恨む気はないが、自分がどうしても恥ずかしく思えてしまう。
「どうしたの?大丈夫?」
俯いた僕の視界に急に彼女のきれいな顔が現れた。
マリアはしゃがんで俺の顔を覗き込んでいた。
そういうことをされると、チビってことだけでなく、精神的にも子供扱いされているように感じてしまう。
彼女の気遣いを恨めしく思ってしまうなんて、なんて醜いんだ俺は。
「……情けないな…」
「え?」
「…なんでもない。行こう。クラウスさんたちが待ってる。」
「ちょっ…レオ?」
「マリアもさ…チビな俺になんか構ってたら、姿勢悪くなっちゃうよ。」
冗談交じりに行ったが、皮肉のような言葉に彼女の瞳が揺れた気がした。
「レオ!」
「わっ?!ちょっ、ちょっとマリア?!」
軽く頬に衝撃があったが、痛みはそんなに感じなかった。
それより、今の状況の方が衝撃すぎて、頭がぐらぐらする。
目の前にはマリアのきれいな顔。
その後ろに灰色の空が映った。
マリアの長い腕が後ろから伸びてきて、その手のひらが俺の両頬を掴んで、顔を上に上げさせたのだ。
ぐいっと上を向かせられた反動で首が痛いとか、上向きのこの体勢が若干つらいとか、そんなことを思う暇もないくらい混乱している。
まるで口づけでもされるかのように近い距離でマリアの顔が見つめている。
「マリア!近いっ…」
「誰かに何か言われたの?」
「えっ?」
「それとも、もう私のこと嫌い?」
「それはない!大好きだけど…っ!」
反射的に答えると彼女は一瞬目を見開いた。
その後、嬉しそうに笑うから俺の頬は熱くなって仕方ない。
「レオの頬、温かいね。」
「…マリアの手は冷たくて気持ちいいね。」
「ふふっ…私たち、二人で足したらちょうどいいね。」
「うん…」
するりと手が離されたので、その手の主を改めて見上げるべく後ろを向いた。
「私は、今のままのレオが好きだよ」
「…うん」
「だから、自分だけで悩まないでね。二人で分け合っていこうよ」
「…うん」
「泣き虫なレオも、やさしいレオも大好きだから」
彼女も、もしかしたら、この身長で嫌なことがあったのかもしれない。
でも、そんな気配は微塵も感じさせず、俺の傍にいてくれる。
「嫌じゃないの?チビな彼氏で」
そう問いかければ、彼女は相変わらずきょとんとして言うのだ。
「レオじゃなきゃ嫌だもん」
そう言って無邪気に笑うマリアを見ていたら、自分が何で悩んでいたのか忘れてしまった。
1+1=1
手を重ねれば、冷たかった彼女の手がほんのり温かくなっていた。
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半年以上前に書きかけていたものをリサイクル。
オチを思い出せなくて難産でした。
(そして結局オチが変わってしまった)
2016/05/08