刀剣乱舞
□自信のない山姥切国広
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「本当に…俺でいいのか?」
喉の奥から滑り落ちた言葉。
あまり大きな声ではなかったが、俺の言葉は彼女の耳に届いていたらしい。
まっすぐに伸びた背中がぴくりとわずかに揺れた。
しかし、その背中には動揺も驚きも感じられない。
「それは…どういう意味で、ですか?」
振り向いた彼女は真っ直ぐに俺を見て問いかけた。
いつものように微笑んでいる彼女に俺の方が動揺してしまう。
胸が苦しくて楽になりたくて問いかけたはずなのに、逆に問われてしまい、答えが見つからない迷路に閉じ込められた気分だ。
「…俺は…たまたまあんたの初期刀だった。でも、俺は写しだ。俺が写しだと知っていたらあんたは俺を選ばなかった。そうじゃないのか?」
「…質問の意図がよくわからないのですが…?」
困ったように笑う目の前の女は俺の主であり、俺をこの世に降ろした審神者だ。
「…写しの俺があんたのそばにいると…あんたに迷惑がかかる」
「迷惑…ですか?」
「写しでは…あんたに恥をかかせる…」
「恥…」
「……」
しんとした空気に耐えられず視線を下げれば、いつも纏っている布の隙間から彼女の足元が見えた。
その足元が、何も言わずに前を向きなおして歩き始めたのが見え、慌てて顔を上げる。
揺れる視界が整い、真っ直ぐに彼女の姿を捕えた時には、その背中は少しずつ遠ざかっていた。
「あ…」
何か言わないと、呼び止めないと、置いていかれてしまう
そんな考えが頭をよぎった。
そして、そのことに戸惑いを感じられずにいられない。
俺は…何を考えているんだ…?
自分で彼女の隣が似合わないと言っておきながら、置いていくべきだという意味を孕んだ言葉を向けておきながら、それを否定してもらうことを期待していただなんて
羞恥心と後悔で胸が押しつぶされそうになった。
「…私は審神者失格ですね。」
「え…?」
「私が初めて神降ろしの儀式をした時、私はどんな刀がいいか、具体的な意思を持ってはいなかった。ただ、『私に似合う刀剣男士を』とだけ願いました。そして、あなたが私の目の前に現れてくれた。」
「……」
「あなたは私の思った以上の働きをしてくれた。あなたの働きがあったからこそ、こうして功績が認められ、政府から誉をいただけることになったのに、あなたは私の横は嫌とおっしゃる。審神者としての器がなっていない証拠でしょう。私は、あなたに自信を与えることはできなかった。」
「ち、違う、俺は…」
「…だけど、あいにくあなた以外を連れていく気はしておりませんので。あなたが行かないというのであれば、今日は一人で向かいます。」
「なっ…!?」
「私は今日の祝いの席を楽しみにしているのです。ですので、一人でも行きます。もし道中で何かあった時にはそれまでのこと…長谷部や歌仙あたりが騒ぎ立てそうですが、その際には『私が一人で行くと言って聞かなかった』と言ってください。」
「っ…そんな理由が通るはずが…」
主を一人で行かせるなんてありえないことだ。
たとえそれが主命であっても、それを受け入れるということがありうるのか。
答えは、否。
「っ…あんたは、ずるい…!」
「…えぇ、ずるいですね。でもこれがあなたの審神者ですので、我慢してください。」
「…俺でいいのか。」
「ふふっ…あなたもずるいですね。」
さわっと草木の触れ合う音がして、視界を遮っていた布がふわりと舞った。
「今、私の目の前にいるのは山姥切国広、あなただけです。写しだとか、偽物とか、そんなことは知ったことではありません。私がこの身を任せているのは、今、目の前にいるあなただという真実しかないのですから。」
開けた視界に映った彼女は笑っていた。
そして、すっと手のひらを差し出した。
「あなたは…山姥切国広は、私について来てくれますか?」
無意識に伸ばした手が、彼女の手のひらに重なる。
「…誰でもない、あんたの命令だからな。」
重ねた手に点ったぬくもりが逃げないように包み込んだ。
自信のない山姥切国広×主
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山姥切かわいい
2015/09/28