BLEACH 短編
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この想いは
いつか花を咲かせるのだろうか?
そしていつか花は咲く
………暑い。
今の状況を一言で表すなら、「暑い」が最も適格な表現だ。
それ以外思い付く言葉など無い。
梅雨明けの晴天が、じりじりと地面と照らす。
雨音が響かなくなった空に、蝉の鳴き声が微かに響いている。
そんな初夏。
十番隊隊長・日番谷冬獅郎は、死覇装に、隊長の証・白羽織を纏った出で立ちで、とある民家前に立っていた。
護廷十三隊の隊長が、死覇装でこのような流魂街の民家に来るなど、普通ではありえないことである。
彼はスタスタと足をその民家の庭に運ぶ。
家の角を曲がると縁側に面した小さな庭に着いた。
昼過ぎだと言うのにあまり人通りも無い住宅街の通りに、垣根を隔てて存在するその民家の庭には、自分より大きな向日葵が五本程度、ピンと背筋を伸ばして咲いていた。
その花を見上げ、彼・冬獅郎はすぐに下に視線を下ろした。
庭の角に咲く向日葵から右に視線を移すと、
庭の真ん中、
奥の垣根際にしゃがみこんでいる少女に目を止める。
彼女の背中を翠の瞳に映すと、冬獅郎は内心ほっとしながら、はぁっと大きく息を吐いた。
そして、家の壁にとん、と背中をもたれかけた。
「…おぃ、蓮。」
腕組みをした状態で彼女―蓮の名前を呼んだ。
ぴくり、と
下を見ていた彼女の肩が動き、頭が上がった。
そしてしゃがんだまま、顔だけを冬獅郎に向けた。
「何してんだ、お前。」
「…あれ?何で死覇装で来てるの、冬獅郎。」
きょとんとした大きな瞳が、冬獅郎を捕えた。
「今日非番でしょ?」
「…緊急の書類が届いたから仕事してたんだよ。つーか、俺の質問に答えろよ(怒)」
眉間に皺を寄せながら、冬獅郎が言う。
家の壁際は日陰で、その壁に背中を預けたまま、冬獅郎は「何してるんだよ、こんな所で」と、もう一度尋ねた。
蓮は、再び顔を正面に戻すと、しゃがみこんだ体勢のまま、膝をかかえて空を見上げて考え始めた。
「うーん…『観察』?」
再度、冬獅郎の方に顔を向けながら言い放った言葉は、冬獅郎を納得させる言葉ではなかった。
「……はぁっ?(汗)」
「だーかーらー、『観察』だってば。ほら。」
そういって蓮が指差した先には、ある植物。
「……それ、お前が育ててるのか?」
ぴくりと眉を動かして、冬獅郎はその植物を見た後、蓮の顔を見つめた。
「うん。懐かしいよね(笑)」
冬獅郎を見つめながら、蓮は微笑んだ。
その笑顔に、冬獅郎は内心どきりとさせられる。
蓮はそんな冬獅郎に気付く様子もなく、再び足元の植物に視線を落とした。
彼女の目の前の地面は、他と違う養分を含んだ土で、小さい石垣で周囲を囲まれている。
言わゆる『家庭菜園』。
いや、『小さな花壇』とでも言った方が、この場合適格だろう。
ただ、そこには鑑賞するような『花』は無い。
あるのは、地面を這うように延びる蔦の植物。
「冬獅郎、西瓜好きだもんね。」
まさか
「……それ、俺のために作ってくれてるのか?」
少しばかり動揺した声が、冬獅郎の口から発せられた。
蓮は相変わらずしゃがみこんだままだったが、
再び冬獅郎の方に顔を向け、柔らかく微笑むと、そっと指先で蔦を撫でた。
「約束覚えてる?」
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