BLEACH 短編

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「……約束って…」



突然投げ掛けられた問いに、少し考えこむ冬獅郎。



しかし、すぐに思い出した。



もう随分昔に、



この場所で、



同じ様な季節に交した…





蓮との約束を。






蓮と冬獅郎はこの民家で育った。



血は繋がってはいない。




流魂街に来た者は皆、血の繋がらぬ者達がそれぞれ生活を共にし、家族という集団を形成している。



冬獅郎も蓮もこの家で、祖母のような存在の女性と三人で生活をしていた。


蓮は冬獅郎や幼馴染みの雛森より歳上で、今は七番隊の三席をしている。



優秀な死神であるが、何故か三席以上の位への昇級を断り続けていた。



故に、雛森が副隊長になっても、冬獅郎が隊長になっても、


蓮は相変わらず三席だった。



周りは蓮を美人で優秀だが『変わり者』だと言った。



最も本人はそのような周りの評判など気にしてはいない。



雛森、



そして冬獅郎のみ、蓮が三席以上の位につかない理由を知っていた。



それは、家族である祖母(的存在であった女性)の面倒を見るためであった。



隊長・副隊長ともなれば忙しくて、草々流魂街のこの家には帰ってこれない。



だから蓮は、再度に渡る良い話を蹴って来た。



彼女は強く、しっかりしていて、




人一倍優しかった。





蓮はその事実を誰にも口外しなかったが、冬獅郎と雛森にはわかっていた。



以前、蓮は冬獅郎にこう言った。




『私たちの家はここだよ』



それは、確か




祖母が亡くなって一週間たったぐらいに、




それまで泣いていた蓮が、笑って、




自分を抱き締めながら言った言葉だった、と冬獅郎は思い出した。




あの時、



蓮に抱き締められた時、



震える蓮の腕の力が強くて、痛かったのを覚えている。




『冬獅郎の帰ってくる場所はここだから』



彼女の震える声が、自分の感情を酷く揺さぶった。






俺が帰る場所は此処。




じゃあ、お前は……?




蓮の帰る場所は?





その時、冬獅郎は自分が蓮に恋心を抱いていることに気が付いた。




自分が、彼女の帰る場所になりたい、と



強くなりたい、




彼女を守りたい、と





心の底から望み、





絶対に護ると誓った。




彼女が自分のことを家族としてしか見てなくても、



弟としてしか見てくれなくても、



それでも良いと、



多くのことは願わず、



高望みはせず、




ただ、




約束を守ろうと、




必死だった気がする。




『冬獅郎は本当に西瓜好きだね。』




昔、蓮と自分と雛森と祖母の四人で、よく縁側に腰かけて西瓜を頬張った。



真っ赤に熟れた甘い実を競争するように食べていた。




あの時は本当に幸せで、




ずっとそんな時が続くと思っていた。




祖母が亡くなった日、




初めて蓮の涙を見た。



失ったモノに気が付いた。



自分を護るべき者に気が付いた。




自分が何に支えられ、何に安らぎを与えてもらっていたか気が付いた。




『またここで……西瓜食べようね』




笑った蓮を抱き締めることのできない自分の非力さが恨めしかった。




気付いてしまった恋心。




心に芽生えた恋の蕾。




この蕾が美しく花開くことはないとわかっていながらも、消すことはできなかった。


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