BLEACH 短編
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「♪仰げばー尊しー」
暖かくなった陽を一身に受け、一人口ずさむ卒業の歌。
卒業式が終わってしばらくたったというのに校庭にはたくさんの人が残っている。
それを高い校舎の屋上からちらりと見下ろして、また空へと視線を上げた。
「…いい天気だなぁ」
この学校の生徒として、ここで空を見上げるのも最後かと思うと不思議な気分だ。
悲しくはない。
でも、寂しい。
それでも私が笑っていられるのは、ここでの思い出が楽しいものだったからに違いない。
それはきっと、あいつのお陰だ。
「…蓮先輩」
「うわっ!びっくりした!いきなり後ろから声かけないでよ一護!」
まさか、後ろに当の本人がいるとは思わず、驚きのあまり肩を震わせた。
「…いないと思ったらやっぱここか」
後ろの後輩は眉間に皺を寄せて、わざとらしくため息をついた。
「何?探してくれてたの?」
にやっと笑いながら意地悪く問いかければ、彼が優しく笑った。
「卒業、おめでとうございます」
あ…
胸がジンと熱くなると同時に、心臓がギュッと締め付けられた気がした。
「…ありがとう」
笑って答えれば、一護は私の隣に歩みより、手摺に背中をもたれかけた。
私はそれを横目で見た後、正面に広がる屋上からの眺めに顔を戻した。
「…懐かしいね。初めて一護に会ったのもここだったね」
「先輩はあの時もそうやって景色眺めてたな」
「私のお気に入りの場所だからね、ここ。」
もともとお気に入りだったんだけど、かわいい後輩ができてからは尚更お気に入りになった屋上。
いつもここでお昼ご飯食べて、お昼寝して、空を眺めて。
私の大好きな時間。
もう終わってしまう、私の大切な時間。
そう考えたら目頭が急に熱くなった。
おかしいな、卒業式ではこんな風にならなかったのに…
「ねぇ、先輩…」
「…んー?」
「俺…蓮先輩のこと、好きだったんですよ。」
「知ってました?」と視線を落としがちに聞く、一護。
私は彼を見つめたけれど、視線は絡まなかった。
「…うん、知ってたよ。」
私はほんの少し微笑みながら答える。
「そっか…よかった」
優しく、切なく笑う一護。
「…ねぇ、一護。」
「ん?」
「一護は知ってた?」
『私が一護のこと好きって』
そう尋ねながら隣の後輩、もとい好きな人を見れば、
悲しげな表情の彼が、私をきつく抱き締めた。
さらば、愛しき日々よ
ザアッと校庭の木々が揺れて、ほんのり暖かい風が制服の裾を揺らした。
私は彼の胸の鼓動が早鐘を打つのを、
ただ、ただ、
目を伏せて、静かに聞いていた。
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卒業された皆さん、おめでとうございます!
「両思い、だけど切ない」を目指したら中途半端に…
いつも一緒にいるのが当たり前だった二人。
その当たり前の日常を壊したくなくて、思いを告げられなかった一護。
それを知ってて、自分の気持ちがバレないように後輩として見続けていた先輩。
…のつもり。
拍手お礼 2011/03/01 - 2011/03/21