BLEACH 短編

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〜SPRING〜




長かった冬が終わり、




天空から純白の雪が止んだかわりに、




暖かい風に乗って舞うは、薄紅の花。





誇り高く咲き誇る姿は見事であり、



はらはらと散るその姿さえ、あはれなり。




満開の桜の花はとても見事であるが、



散っていく姿はなお儚く、美しく思える。




その矛盾した気持ちは、まるで恋心のようで、




妙に心が揺さぶられる。






「………蓮?」



「え?」




見上げていた視線を、声がした方へと向けた。



そこにいるのは自分の夫。




誰でもない、




私の愛しい人。





「どうかしたのか?」



心配そうに私を見つめる貴方を見て、私は微笑んだ。



「いいえ。ただ…」




私は再び視線を、満開の桜に向けた。




春宵に浮かぶ満月の光が、はらりと散る桜の花びらを写し出す。



「ただ…綺麗だな、って思って…」



あまりに美しすぎる光景に、私は感嘆の声を上げた。



昼間、太陽の下での桜も素晴らしいけれど、



夜桜はまた格別だと、




改めて実感する。




「…そうだな。」



少し笑って、私の夫…



朽木白哉は、空を見上げた。



私はそっと隣の白哉さんに視線を移した。



きっとこの人は、尺魂界で一番桜が似合う人だと、私は思っている。




白哉さんは綺麗な人だ。




男の人に『綺麗』っていう言葉は、誉め言葉にならないのかもしれないけど…



それでもこの人は、容姿だけでなく、



信念や心




魂が綺麗だと、




私は思っている。




そして、





そんな綺麗な貴方は、私の夫になってくれた。



私を愛してくれた。




私が不安な時、ずっと側にいてくれた。



私を支え、励まし、




私を救ってくれた。





私はそんな貴方に憧れていて、



好きになって、




愛していた。





それは今も変わることはない。





私に『幸せ』を与えてくれた貴方。





ただ、時々、




すごく不安になるの。





貴方があとどれくらい、






私の側にいてくれるかが…




桜は誇り高く、



美しく咲くけれど、





いつかは散ってしまう。




桜の似合う貴方も、とても綺麗で、




まるで『桜』みたい……





だから、いつか、





私の前から儚く消えてしまいそうで、




私はいつも恐ろしかった。



今が幸せなだけに、



いつか訪れるであろう『不幸』に脅えてしまう。



貴方を失うことが、恐ろしくて、



散り逝く桜を貴方に重ねる自分が嫌で、



気を緩めれば涙が流れそうになるのを必死で堪えた。




幸せなのに、泣くなんて…


そんなのおかしい。




幸せすぎるから、だなんて。



まるで幸せじゃないみたい。




「……覚えているか?」




ぼんやりと彼の横顔を見つめていたら、



いつの間にか彼の瞳は私を捕えていて、



優しく微笑む彼に私はまたときめいた。



「私が蓮に想いを告げた時のことを。」



私は微笑んで答える。



「えぇ…もちろん。」



忘れません、と付け加えて私は微笑んだ。



白哉さんに告白されたのも、結婚しようと言われたのも、



この夜桜の下だった。




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