〜なくせに

□知らない
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知らないくせに



あいつと初めて会ったのは、学院の入学試験の日だった。


試験当日、最初に着く席はどこでもよかった。

まぁ、俺はこの試験三回目で、そんなことは重々承知済み。



つーか、流石に今回は受からねぇと、周りに馬鹿だと思われちまうしな。


勿論、俺は馬鹿じゃねぇ。

前の二回の入試は…何つーか…だるかったし。


俺には、もっと他にやることがあるんじゃねぇかなって思ってたわけだ。


親の敷いた道とか、周りが望む俺の姿とかじゃないものが。


それにあがいてみたつもりでわざと試験を落ちてみたんだが…結局見付けらんなかったんだ。


……俺のやるべきことってなんだったんだ?



そんな麻痺したような頭で向かった三度目の試験。


教室に入って、感じた不思議な感覚。


その先にいたのが、あいつ。


正直、一瞬男か女かわからなかった。


着てたのは藍色の袴だったし、漆黒の髪は短く切ってあった。


そして何より、あいつには中性的な魅力があったんだ。


近くに行ってよく見たら、明らかに女だった。


長い睫や細い体、白い肌にしなやかで細い体。



『隣いいか?』

『え?』



透き通るような綺麗な声。



『お前、名前何て言うんだ?』

『…人に名前を聞く時は、自分から名乗るのが礼儀では?』



ごもっとも。

気が強そうなところも、こびた態度を取るような女より、断然いい。



『そうだよな、悪かった。つーか、お前・女だったんだな?(笑)』

『はぁっ?!』


わざとそう言ってみたところ、あいつはムッとしたような顔。

かわいいな。

そう思った。



『悪ぃ悪ぃ、怒るなよ(笑)俺の名前は………』






「檜佐木」

「はい?」

「悪いが、これを和泉に渡しておいてくれないか?」

「あぁ、和泉ですね。わかりました。」

「頼んだぞ。」


授業を終えて、教室を出ようとした俺に、担当の教師が一枚の紙を渡した。


これはあいつ宛ての紙。


恐らく、この教師の授業内容についての質問等をまとめた物への回答書なのだろう。


熱心なもんだな。


そう思いながら、生徒たちが移動する廊下を駆けた。


真っ直ぐ伸びた廊下の先に、一人の女学生を視線で捕えた。



「上総」



名前を呼ぶと、あいつはぴたりと歩みを止めた。


漆黒の艶やかな髪がさらっとなびいた。


振り向いたのは美少女。


しかし、その瞳には警戒心が浮かんでる。


「…何?」

「先生に、これお前に渡してくれって頼まれた。」

「…あぁ、ありがとう。」

「いえいえ。」

「………じゃあ。」


用が済めばすぐに進路を戻し、歩み始めてしまった。

和泉上総。


美人で成績優秀で、

でも、冷てぇ奴。


いや…俺にだけだろうけどな。



「もう次の試験に向けて勉強してるのか?」

「…次は絶対負けないから。」

「惜しかったよな、一点差だったもんなぁ」



わざと煽るような発言をすれば、上総の眉が微かに潜められた。


あ、怒ってんな(笑)



「上総」

「…何?」

「お前、髪伸びたな。」


さらり…

漆黒の髪に触れてみた。

すると、上総が驚いたように見上げてきた。


「昔は髪短かったのに…でも今の方が似合ってるな。こっちのが可愛い」

「なっ…!?///」

「お?照れてるのか?(笑)」


茶化したら、手を払われてしまった。


「っと…相変わらず手厳しいな。」

「…あんたは相変わらず無神経ね。」

「そうか?」

「最低」



睨んだ顔も綺麗だな、なんて。


末期じゃねぇか。


お前は…俺の気持ちなんか知らないくせに。


「…次の試験、賭けねぇか?『勝者が敗者に1つ命令できる』…どうだ?」



俺は



「俺が勝ったら、一日俺に付き合う。…賭けるか?」

「…絶対…負けないから。」



お前に惚れてるんだ。


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