〜なくせに
□友達
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友達のくせに
「上総!」
「え?」
「どうしたの?ぼーっとしちゃって。」
「あ…ごめん」
「また檜佐木くんのことでも考えてたの?」
「っ?!なっ、何であいつのこと考えなきゃいけないのよっ!!!」
試験も迫ったある日の夜
私の部屋に来ていた友人の言葉に、そう間を置くことなく断言した私。
「だって…仲いいじゃない。喧嘩する程仲がいいって言うじゃない?」
「仲がいい?笑わせないで。あいつはただの同級生!って言うか、寧ろ宿敵よ!」
仲なんてよくない。
いつも私を焦らせる。
仲がよければ、こんなに苦しい思いなんてしない。
「宿敵って…友達じゃない。檜佐木くんは上総のこと、少なくとも嫌いじゃないはずよ。寧ろ好き?」
「っ?!止めてよ、そういう冗談!あいつは私をからかうのが好きなのよ。」
いつも私の前を歩いて、私を不快にさせるんだ。
友達じゃない。
友達って言いたくない。
「愛情の裏返しなんじゃないの?」
「だーかーらっ!愛情なんて、私もあいつも持ってないって!!」
さっき友達って言った本人の口から、愛情だなんて言葉が出てきて、頭の整理が追い付かない。
「あの将来超有望株で男前の檜佐木くんと友達のくせにー!ずるいよ、上総〜」
握ってた筆に力が入る。
墨が軽く滲んだ。
「あのさ、あいつが私をどう思ってるかなんて知らないけど、私にとってあいつは競争相手であって、私が一番打ち負かしてやりたい宿敵なの!」
「それが私ら女子からしてみたら羨ましいのよ。檜佐木くんってさ、上総以外眼中にありません、って感じなんだもん。」
すねたようにそう言う友人の発言に、私はまた眉間に皺を寄せた。
「ねぇ…さっきから妙につっかかってくるよね。何が言いたいわけ?」
イライラしてた。
不敵そうに私の前を行く檜佐木に?
「…ごめん…上総が羨ましかったんだ」
違う
「檜佐木は私の彼氏でもないし、友達でもないんだよ?強いて言えば、犬猿の仲!私はあいつが嫌いだし、あいつも私を好きじゃない。何が羨ましいの?」
はっきりしない友人に?
「羨ましいよ…だって…」
違う
「私、檜佐木くんのこと好きだったんだもん」
「…え…?」
気付かなかった自分にだ。
友達のくせに…
気付かなかった。
何が『友達』だ。
胸が痛んだのは、
友達として何も気付いてあげられない自分が無力で
だから、心苦しくって
きっと、そのせいなんだ。
そうでなければ、説明がつかない。
けれど、
ごめんねと
謝りたくても謝れないのは、
なぜだったんだろう…
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