〜なくせに

□好きな
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★CAUTION★
原作コミック15巻『-17.逸れゆく星々の為の前奏曲』をベースにしております。






死ぬかもしれない。

そう考えた時心に浮かんだのは、

誰でもない、あいつの笑顔だった。



好きなくせに



懐かしい感覚に背筋が凍る。

実習の引率時にこんな出来事が起こるなんて、最悪だ。

幸い一年坊主共は逃げきったみたいだが、俺はまともに一撃くらっちまい、顔面からドクドクと血が流れ出て、視界が赤く染められた。


やばい、顔が、傷が、焼けるように熱い。

息が上がる。


手が



震えた。





昔、虚に襲われて死にかけた時、助けてくれた人がいた。


あの時のことがトラウマになってない、とは言えない。


それでも、俺は強くなったつもりだった。

一時期は、虚から、現実から逃げ出したくて、

死神になることを躊躇った。

でも、今は違う。


守りたいやつができた。





瞬間、あいつの顔が脳裏に浮かんだ。



そうだ。


俺、

お前が俺に向かって笑顔で笑ってる姿、

まだ見たことねぇよ。





***



五番隊隊長と副隊長の手によってあっという間にすべてが片付いた。



そして俺は、

この実習に上総が参加していなくて良かったと、

緊張の解けた頭で考えた。



応急処置として包帯で片目を止血し、解錠して帰路に就こうとした。

まさか、開けた瞬間に向こうからあいつが飛び出してくるとは思わなかった。


「檜佐木!!!」


駆け寄ってきたあいつは泣き顔で、俺の胸に飛び込んできた。


何て顔してんだよ。


「よかった…生きてる…!」


俺の胸のあたりの服をしっかりと握り、震えながら俯くあいつ。



あぁ、


俺は生きて帰ってこれた。

そう、実感した。



「なぁ、」

「何?」

「この実習の引率な、今回の試験の点数にいくらかプラスされて今学期の成績出るらしいんだ。」

「…え?」

「つまり、俺らは試験で同点だったわけだが、お前は今回の実習は不参加だったわけで…つまり、今学期の成績一位は俺になるわけだ。」

「え」

「で、約束したよな?今回成績勝った方の言うことなんでも聞くって。」

「あ、あれは試験だけじゃ…!?」

「俺からの命令は〜」

「ちょ、待っ…!」




「俺と付き合ってくれ。」


あいつをそっと腕のなかに閉じ込める。


一瞬、目を見開いたまま固まった顔をしていたが、みるみる赤くなった、あいつの顔。


「なっ…何言って…」


口をパクパクさせる上総。


「俺は上総が好きだ。初めて会った日からずっと。」

「っ…」

「上総は?俺のこと本当に嫌いか?」

「わ、私は…」


真っ赤になって俯く上総。

俺は華奢な彼女を持ち上げるように抱きしめる。


「ひ、檜佐木…!?」

「認めろよ」



俺のことが好きだって



そう彼女の耳元で囁くように言えば、彼女が抵抗を止め、静かに息を飲む音が聞こえた。


「…あんた、それって自惚れって言うのよ?」


少し呆れたように言う上総。


「そうか?でも、自惚れたっていいだろ?」


そう言いながら彼女の体を少し離し、顔を見上げると白い頬は林檎のように真っ赤に染まっていた。



そして、


その頬を緩めるように彼女が微笑んだ。


初めて向けられたその笑顔が、


すべての答え。







好きなくせに





本当はずっと前からわかっていた。

でも、秘密にしていた。

意地悪なアナタを

素直になれないキミを


好きなくせに…。





〜なくせに*FIN*


2010/10/13

**********

やっと完結!!

素敵なお題に出会え、ビビビッと衝撃が走り書き出したプチ連載。こんなに長期化するとは…;

イメージ(妄想)を形にするのってなかなか難しいものなんですね…文才がないので余計に私には難しかった…orz

素直になれない彼女と彼女しか見れてないゾッコン檜佐木さん。

二人に幸あれ…*


応援してくださった皆様、そしてここまで読んでくださった上総様、ありがとうございました!




水無瀬透


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