Sagittarius 9:00 p.m.☆ Don't be late!

□宝物と彼
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「やはり、体重が減りましたね。」
耳元で囁かれて体中の力が抜けた。やっぱり好きだ、と思いながらそのまま逞しい胸に顔を埋める。
「この無重力下で体重云々は関係ないと思うがな。」
「大ありです。あと一キロ減ったらS.B.には乗せません。許可は出しませんからね。」
「・・・ケチ。」
「貴方の内臓が潰れるよりはましです。」
驚いて顔を上げると、古泉は俺の顔に唇を落とした。
「こんなに痩せてしまって。ちゃんとした検査に行った方」
「嫌だ。」
「キョンくん・・・。」
即答で返した俺に、横腹を撫でていた古泉は目を細めた。
「それだけは嫌なんだ。あんな、ところに、行くなんて。」
古泉は俺を抱き上げると、寝室のベッドの上に優しく下ろす。詰めていた襟を外され、上着をはぎ取られる。それと一緒にベレー帽が床に落とされた。
「酷なことを言いました。でも、貴方のその痩せ方は尋常じゃないです。・・・何を怖がっているんですか。言ってくれないと、女神の力など持っていない僕では分かりません。お願いですキョンくん。何が不安なんですか?」

真摯に見つめる視線が痛い。そうだ、俺は怖くて仕方がないのだ。
だから本当の意味で古泉を受け入れられない。そのストレスで食事も減ってしまう。・・・ただ単に激務だということもあるかもしれないが。
そして今日は駄目だ。どうしても駄目。古泉を受け入れられない、なぜなら。
子どもができてしまうから。
子どもは好きだ。見ていて癒される。もぞもぞと動く手も足も愛おしくてしょうがなかった。初めてママ、と呼ばれた声を忘れない。あの柔らかな髪も、ふわふわした温かい空気も。
あの研究員に奪われるまでは、今まで生きてた中で最高の宝物だった。

ホロっと瞳から水がこぼれおちる。頬を伝って落ちるそれを古泉の優しい指が拭った。煙草の匂いのしない指。
「・・・ッ、」
首を横に振る。子どもは好きだ。でももう無理だ。次に失ったら、もう立ち直れない。
自分が最も嫌う方法で相手に復讐してしまう。
古泉にも迷惑をかけてしまう。病室のドアの前。次の子を産めばいい、と何でもないように、面倒そうに言った会長のように。

「もう、無理だ。」

古泉の青い軍服を握り締める。零れる涙がシーツを濡らした。
首を振る俺が言った言葉に古泉は真剣な顔をして俺を包みこんだ。
「僕との関係がもう無理ですか?」
梳かれる髪の毛が気持ちいい。言われた言葉にぶんぶん、と首を横に振る。
「・・・大体何が不安なのか、理解できましたよ。」
背中をポンポンと叩く手に安堵する。
「会長はどうだったかなんて知りませんが、僕は子どもは可愛いと思います。」



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