Sagittarius 9:00 p.m.☆ Don't be late!

□別れ
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短くなった煙草を灰皿に押し付け、また新しいものに火をつける。
議会の連中は嫌な顔をしたがそんなことは知ったことか。
「・・・会長、」
書記を勤めている女が抑揚のない声で咎める。こんもりと山になっている灰皿を見て軽く舌打ち。
新参者が顔を青くしたがそれにも気にとめない。

「今日の決議案はこれまでだ。各自解散。」

どうせあと一時間ここにいたところで帝国を打破する良い案など出やしない。深く息を吐き出すと、目の前に座っていた議会の連中が口々に退席していく。それを情けなく思いながら人工的に作られたエリアの空を眺める。


“そんなに吸うと、周りが迷惑だ。”


どこからか、あの女の声がした。
(いや、あいつは男・・・?知るか!)







「最近は、本数が多くなっているね、会長。」
・・・ほっとけ、と思いながら俺は科学技術班の部長殿を見た。
先ほどコーヒーを飲もうとキャンティーンに来たらこいつに会ったのだ。
「何だ。」
「・・・古泉君に決まったらしいね。」
「何が言いたい?」
コーヒー片手に睨みつけると、いかにも甘そうなココアを持ったそいつは肩を透かした。
「案外会長も意地っ張りだよね。」
自覚はしている。こうしてこいつに言われると腹が立つが。
「遺伝子的にもいいんだろう。優秀なやつなのは認める。」
「でも、それ以外は認めたくない。違う?」
「何を根拠に。」
「煙草を買う回数が増えてるよね?」
「・・・ッチ」
「舌打ちした時点で認めてるんだよ、会長。ねぇ、優秀な遺伝ならあのまま貴方でも良かったはずだよね?」
「あいつが嫌がった。」
「そして会長はそれを引き止めなかった、憶測だけれどね。」

当たってやがる。

「好きなら好きって言わないと、だめだよ。」
「・・・貴様にだけは言われたくないな。」
「まぁ、同感だね。」
「自覚はあるんだな。」
「ひどいな。」
「ひどいと思ってねえ癖によく言う。」
コーヒーを一口すする。口に煙草とは違う苦味が広がった。


「でも、もう彼女は貴方のものじゃなくなる。」


同じようにココアを一口飲んだそいつは、俺の目をじっと見つめた。こいつはあいつのことを“彼女”と呼ぶのか、と少しばかりずれたことを考えながら。だがその言葉は間違いなのだと俺は知っていた。
ゆるやかに首を振って部長氏の目を見返す。


「あいつが俺のものだったことなど一度もない。」


出会いから別れまで、あいつは俺色には染まらなかった。



END


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