Sagittarius 9:00 p.m.☆ Don't be late!

□私の彼女はパイロット!
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金曜日のお昼休み。始まりの30分、この時間帯は“絶対に行くなよ”と上官がきつく新米兵に言う時間帯である。

「もう我慢できん!」

本日のB定食である白身魚のフライに手を伸ばした国連合軍『Zion』の双璧の一人、エーススナイパーにして部隊長を務める男がフライにフォークを突き刺して唸った。カチャカチャと周りで定食を掻き込む隊員が目立つ。彼らは知っていた。このあと、どうなるのか。

「同感です。」

にっこりと笑いながら、A定食である煮魚を食べていた男が箸を置いて柔和に笑いながら手を組む。空調が完璧に管理されたエリアの中だというのに寒い。彼の後ろに吹雪が見えた。定食を掻き込む隊員のスピードが上がる。ほかでもない、第七艦隊所属の幕僚総長の一言によって。

「何かの策略を感じる。お前なんか余計なこと言ったろ。」

ミハエル・ブランはコーヒーを口に含んで幕僚総長を睨みつける。その翡翠の瞳をものともせずに、呆れた表情で古泉一樹が肩を透かした。眉に皺が寄っている。・・・危険区域だ。

「とんでもないですよ、大体、中佐に触れないからって僕に八つ当たりしないで下さいよ。貴方こそ僕の愛しの女神様に何か言いませんでした?だって“触るな、近づくな、嫌いになるぞ!”ですよ?僕は地球の文化でかなり大昔にあったドラマで見た水戸黄門とかゆう、ほら、最後に箱みたいなのだして皆がひれ伏すアレですね、それを突きつけられた気がしました!本当に、心当たりはないんですか?」

ヒートアップする受け答えに、遂にお持ち帰りを希望する隊員が目立ってきた。厨房は火の車である。二人の会話もヒートアップだ。

「あったらここでこうやってお前と議論なんかしてない。・・・姫の奴、何時にも増してメサイアに籠りやがって・・・メサイアめ、俺から姫を奪うとは言語道断だ。今度クラッシュしてやる。」
「あぁ、それは僕も同感です。どう羽を千切ってやろうかいつも考えてますよ。でも議題はそこじゃないんです。どうしたら触らせてくれるか、ですよ。」

メサイアをクラッシュ、のあたりで整備班の一人が倒れる。「―――!!」と名前が叫ばれるが意識が戻らない。そうこうしているうちに素早く担架が運ばれた。

「解ってるって!お前、何か案はないのか?」

怒鳴り声を上げたミハエルに、周囲がびくつくも、本人たちは気にしていない。運悪く皿を厨房に返しに行こうとした隊員が皿を取り落としてガシャーン、と音がした。隊員の顔は真っ青だ。

「・・・そうですね。上官だからできることって、いっぱいあると思うんですよ。ミハエル大佐。」

急いで割れた皿を片づける隊員の耳に、不穏な言葉が入る。もう一つ担架が必要か、と隊員の直属の上司は涙をのんで携帯端末を握りしめた。

「・・・奇遇だな。俺も今それを考えていた。古泉幕僚総長。」

二人して顔を見合せて笑う。
食堂に入ろうとした隊員二人が笑顔のままリターンした。・・・賢明な判断である。

「ふふふ。」
「あっはっは。」

不気味な笑い声に、「もう何も起きないでくれ」と割れた皿を片付け終わった隊員は切に願った。厨房に謝罪することも忘れない。

「大体、働きすぎですよね。彼ら。」
「ああそうだな。働かせすぎだな。」

そのアイキャッチが恐ろしい。何を考えたのか。いや、分かっているが水曜日の二人組が可哀想で仕方ない。ガタンと同時に立ち上がった二人に、皿を割った隊員が急いでその場を退いた。

「「じゃ、それで。」」

にやにやと笑いながら出ていく二人に、誰も声はかけられないのが常である。そしてその食堂にいた誰もが思うのである。

参謀、中佐、早く逃げて!悪夢が来る!



END.

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