Novel Present&Project

□紅尚書と藍家の若造
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「春ですねぇ。」
「・・・ああ、春だな。」


春もうららな暖かい日が続くここ彩雲国は、今日も今日とて当代帝・紫劉輝の住まう貴陽を中心として活気づいている。


珍しく休日を取ることが出来た李 絳攸は紅家貴陽別邸に来ていた。名目上は秀麗の勉強に付き合うためなのだが、現在は庭の桜の木の下に敷物を敷いてお茶を飲んでいる。
ほのぼのとした空気はまるで老成した夫婦のそれだが、当の本人たちは全く気づいていない。見ていた邵可は遠い地にいる三番目の弟を思いやり、人知れずため息を吐いた。

「あの二人をくっつけるのは至難の業だよ。」

邵可は笑って振り返り、「そうは思わないかい?」と数メートル後ろの木に問いかける。するとその木がガサガサと音を立てた。






「・・・気づいていらっしゃったんですか?兄上。」
答えたのは、頭や服に枯れ木の葉っぱや泥をつけたなんとも情けない風情の紅 黎深である。黎深は土埃をパタパタとはたき、兄を見てニコリ、と笑った。
「もちろんだとも。黎深の気配はたとえ寝ていてもわかってしまうよ。・・・独特だからね。お花見に来たのかい?」
「兄上の家の桜が復活したと聞きましたので。・・・すももの花が咲いているうちには来られなかったものですから、桜は見に来ようと。」
恥ずかしげに体をゆすった黎深は伺うように邵可を見た。
「何もこんなに遠くから見なくても、絳攸君と秀麗と一緒に見れば良いのに。・・・まだ秀麗に名乗ってないらしいね。」
黎深は拳にぐっと力を入れて、首をぶんぶん横に振った。
「だってですね、私は秀麗に嫌われたくありません。」
ポツリと言った言葉に、邵可は笑ってしまう。この天つ才の鬼吏部尚書は姪に嫌われることをとても恐れている。邵可にはそれがとても興味深く、そして愛しい。
「ばかだなぁ、黎深。そんなことで秀麗は君を嫌ったりなどしないよ?ああ見えて、物事の本質は見定める力がある。・・・親の欲目かもしれないがね。」
「そんなことありません!」
「では、なぜ?」
「・・・・私は巻き込みたくないだけです。」
「君は本当にいい子だね。」
「そんなことを言うのは兄上だけですよ。」
黎深は視線を地面にずらすと、扇子を取り出した。それと同時に砂利を踏む音が聞こえて来る。


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