君を一目見たとき。同じ匂いがしたんだ。
おかしいと思わないかい?
野蛮な猿である君と、学もあり思想もある僕が同じに見えたなんて。
(ああ)
君だけが、僕の渇きを―リカイしテくれル








「鴨太郎さん!」
「すごいや、伊東さん、今回も一番だね!」
誰も彼もが僕のことを褒める、崇める。
誰一人として僕と馴れ馴れしくしない。
僕は特別。
そう、僕は溢れかえる黄色の中の橙なのだ!


だが、高尚な橙にも、不満があった。

―渇いて渇いて、止まらない。

誰か、僕の渇きを満たしてくれよ。







そんな中、暇つぶし程度にと入った真選組で。
君と出会った。




「おい、お前」

馴れ馴れしく、僕に話しかけ。その上お前呼ばわりするこの男。

「なんだね」

おそらく、いや絶対に。


「攘夷志士と交わったことがあるそうじゃねェか。大したもんだな」

にやり、きっと誰もが背筋を凍らすような笑みで、そう言葉を吐く。

―こいつ、僕のことが嫌いだ。


「・・・土方副長ほどでは」


そう返し、二人犬猿なまま、その場は終った。










君はきっと、似ている僕が怖いんだろう?

己の意識とは別に、湧き出る闘争本能。

持て余すことがどういうことか、君はわかっている、理解しているのだ!



君はきっと、僕を狂っていると思っているだろう?


先陣を切っていく、迷いのない、どこか楽しそうな姿。
肉を斬り、血を浴び、満足げな笑み。

狂っているのは君の方さ!








「伊東君」

突然の事に、心臓が跳ねる。字を教えていた近藤に、ただ名を呼ばれただけなのに。


驚いた。
驚きすぎて言葉を失うなんて、僕には初めての経験だった。

“君”付けだなんているぐらいぶりだろう。寺子屋の、先生以来か。

いや違う。

―ハジメテ

何か、左胸辺りが熱くなった気がする。


「ありがとうな」


にかっと笑う近藤を見て、先程と同じ箇所、神経痛だろうか心労だろうか、痛みが走った。



ボクハコノヒトヲリヨウシナケレバナラナイノニ
ウラギラナキャ、イケナイノニ


「そうだな・・・伊東君は俺なんかよりよっぽど出来るから、今度から先生とおよびしなきゃなぁ」


ぼうっとする僕の頭にぽんぽんとその無骨で大きな手を乗せ、近藤は部屋を出て行った。










本当は君もわかっているはずさ。

己の意識とは別に、湧き出る闘争本能。
持て余すことがどういうことか、君はわかっている、理解しているのだ!

回避しようなんて、無駄なあがきはやめておきたまえ。



名目付きの、人斬り。それならば君は許されると思ってる。

君の理由はあの近藤だろ?

そんなもの、僕が、壊して やるよ。


君は、僕と同じ、渇いたものを満たす為に人を斬っているのだと自覚すればいい!










「目障りなんて」
「そんなかわいいものじゃないさ」


「「いずれ殺してやるよ」」



そうだ、その目!

もっと僕を憎めばいい、蔑めばいい!







憎くて憎くて

「・・・愛してる」

そう、僕は君を愛している。








ああやっと、君と斬り合える。

狂った目、血に染まった君。愛しい。


ほら、やっぱり君は、僕より狂ってる。




「土方ァァァ!!」

「伊東ォォォ!!」





死の間際、見えた絆。

それは、僕の欲しかったものへと繋がっているようだ。

なんの苦労も知らない奴がもっていて、完璧な僕になかったもの。

光って、眩しい。ひとりではてにいれられなかったもの。





メロウ
(やっと満たされた!甘美なまでに甘い孤独から脱出成功)


「が・・・とう」
初めての言葉に、唇がうまく音を作れない。
もう一度。ブラックアウト寸前。
「あり・・・がとう」




















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