□君といた場所
1ページ/2ページ















 「…っざけんな…!!」















真っ白な壁を自分の拳で力一杯殴る




ダァンッ!!!

廊下を歩く看護師や、他の入院患者を驚かせるには十分な音がした












だが、俺にそんなことは関係ない








ただただ、悔しさや不甲斐なさでいっぱいだった





もうまともに力の入らない手で、震えながら一生懸命に書いたことがわかる手紙


















俺の手の中でクシャクシャに丸まって、少し固くなった紙の角がチクチクと痛い

































  忘れろだと?
こんなに愛しくて仕方ない存在のお前を忘れろ?






















   ふざけんな
  忘れるわけがない
 忘れられるわけがない















遺された者の幸せを願って自分を忘れてほしいなんて






そんなのはただの自己満足だ














なんで置いていくんだよ…

なんでみんなして俺を置いていくんだよ…





「は…ははっ…
…死神でも憑いてんのかな、俺…」





昨日までは神楽を少しでも笑顔にしたくて笑えてたのに、今では口許をピクリとも動かすことができない







































あぁ、姉上が亡くなった時もこうして俺は打ちのめされたんだ…




























   イタイ…
















苦しいのも痛いのも神楽のはずだったのに、今は俺がイタイ……

































ミイラのようにふらふらと神楽の眠るベッドに歩を進める




スゥ…と頬を撫でれば、いつも撫でていた時と同じ感触や体温が伝わってきた















なんだ、まだこんなに温かい









ほら起きろよ神楽…
目を開いていつものように突っ掛かってこいよ








それだけで俺は笑えるんだ





それだけでいいんだ…





















































その日はムカつくくらいに青空
お前の瞳と同じくらい澄んだ青



『笑って』と言われているような気がした









































   悪ぃ…
 せめて今日だけ…
今日だけでいいから泣かせてくれよ










































病室に小さく響く嗚咽



ギュッと繋いだ小さな手から伝わる体温が冷めていくのがわかる



























  なぁ、神楽…
明日が晴れだろうが、雨だろうが明日からは絶対に笑うから…





















明日こそは笑うから…
いつものようにちゃんと笑うから………







































   だから………





















































     -end-
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ