「俺、菊丸キライじゃ」
私が関東大会のビデオを見てきゃあきゃあ言っていると、雅治がぽそりと呟いた。なんで?という意味を込めて振り返るとちょっとむすっとした雅治と目が合った。
「だって俺なんか悪者扱いされてるし」
ボール当てたんわざとちゃうし残念無念また来週って言ったんも俺ちゃうのに。若干影を背負った雅治はどうせ俺なんか悪者なんじゃと拗ね始めた。うーん…アクロバット褒めたのがいけなかったのかな。雅治はあんまり嫉妬しないけど、テニスに関しては変なところで負けず嫌いだ。でも拗ねてる雅治が可愛いからもうしばらく様子を見ることにする。
「俺、レーザービーム頑張って打ったんじゃ。やのに思ってたより遅いとか言われた」
ああ、あっさり返されたの悔しかったんだね。いやでも右腕でしょあれ。
「あー腹立つ」
ぼすんっと雅治はソファーに倒れ込んだ。閉じた瞼の裏にはきっといくつものテニスの戦略が浮かんでいるんだろう。負けず嫌いの雅治が時々(でも負けず嫌いだからすっごく時々)こうして負け試合を振り返ってモチベーションを上げているのを知っているから、私は黙ってビデオを見続けた。
『甘いぜよ!』
画面の中の雅治が言う。
あ、やべ。今の雅治すっごくかっこよかった。どうしようかな、きゃあきゃあ言いたい。
雅治を振り返ったらまだ瞼を閉じていた。綺麗な顔を無防備に晒している。通った鼻筋、長い睫毛、薄い唇、エロティックな口許の黒子…キスしたら怒られるかな。すごく雅治に触れたくなって手を伸ばしたけれど、雅治の思考を妨げたくなくてその手を空中でさ迷わす。あー…むらむらするー!
「、っ?!」
結局私の我慢は数秒と持たず、私は雅治の黒子をぺろりと舐めたのだった。
おじゃまむし
(くっそ戦略全部ぶっとんだ)(この小悪魔め、お仕置きしちゃる)
「全身舐めつくしたるぜよ」
「ごめんなさい調子乗りました」
「遠慮せんで、こっちおいで」
「…………じゃあ、」