Prince
□唇から感染する
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あり得ないと思ってた。
キス自体意味がわからないのに、どうして舌なんか絡めるの?ずっとずっと、気持ち悪いと思ってきた。他人とべたべたするのは嫌いだったし、だからこの年まで何の経験もなく過ごしてきたのだと思う。
「………」
夜の公園で、仁王と二人で酔いを覚ました。大学の飲み会で飲んで、二人とも大して酔ってはいなかったけれど抜け出した。
多分、お互い酒の勢いでべたべたする人たちから逃げたかったんだ。
「…意外」
「何が?」
「お前の男性経験」
いやに涼しく感じる外気、仁王に肩を抱かれて引き寄せられると驚くほど温かさが心地よかった。
「ほんまに、フレンチキスしかしたことないん?」
「うん、清いの」
「ははっ、清いて」
仁王は笑いながら私の肩を擦る。人と密着してこんなに心地よかったことはない。仁王が好きだなんて思ったこともないのに、満たされて満たされて幸せになっていく自分がいて驚いた。
「汚したろか」
「ふふっ、へんたーい」
仁王はくしゃくしゃと私の髪を撫でたり、うなじを擦ったりしていた。耳から落ちた髪をそっと掛けてくれたその仕草にドキドキした。私もそっと仁王の肩に頭を預けて目を閉じる。私に触れる仁王の手がきもちいい。
自然と笑顔になって、幸せ、と呟いてみた。
「……ふふっ」
仁王とおでこをくっつき合わせる。二人でクスクス笑う。仁王は私を抱き締めて、首筋に顔を埋めた。掛かる吐息が愛しかった。
「……キスしていい?」
自然と顔が近付き合って、囁くようにそう言われた。私は視線でそれに答えて、次の瞬間には仁王の唇が私の唇に重なっていた。啄むように私の唇を吸ってみたり、心地好くて人生で初めて唇を開いてみたら、そっと舌が入ってきて私のそれと絡まった。くちゅっと音がして、舌が触れ合った瞬間に快感で全身が震えた。どうしていいかわからないから、とにかく仁王に身を委ね続けた。
「ん…」
すごく長い間そうしていたように思う。唇が離れて、恥ずかしくて二人クスクス笑った。
仁王はそっと近付いて、何度も何度もキスを繰り返した。やがて首筋にちゅっとキスを落とされると、私は目を閉じて幸せを味わった。
唇から伝染する
(t/確かに恋だった)