X*A SS

□知らず揺れる境界線
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「でも、それが当然なんだ。軍人の俺達でも気付くような手段があるんなら、より平和に近い誰かがとっくに実行してるはずだろ。
道なんか、下手に決まってる方が厄介なんだ。何でも試してどれが1番いいのか、後から考えりゃいいんだよ。
考え方だって人それぞれなんだから、自分に合うものを探せばいい。明らかに踏み外してるヤツがいたら、違う道を教えてやるんだ。でも選ぶのはそいつだ。
…本当は、どんな思考だろうと誰も強制できないのが理想なんだがな」

道を模索しているのは1人じゃない。
内容としてはあまり救われたものではないが、少なくともアスランの中で何かが救われた。
と同時に、またしてもそわそわとするものを心のどこかに感じて、そして何故かいたたまれない心地がして
思わず立ち上がったまではいいが、振り仰いだムウに適当な言い訳が思い付かず、逡巡した後にやっとこれだけを口にした。

「すみません、…先に失礼します」
「あ、待った。悪い、その前にちょっと手貸してくれるか。酔いが足にまで廻ったみたいでさ」

早く立ち去りたいのに、頼まれ事を上手く断る器用さも持ち合わせていないアスランは、頷き素直に手を差し出す。
罰の悪さを感じての頬の赤らみを隠すように、少し俯いたまま。
だが、掌ではなく腕にムウの大きな手が触れそのまま掴まれた事に驚いて
見遣ればムウは、じっとそこへ視線を落として険しい顔をしていた。

「あ、の……」
「こんな、細っこい腕をしてるんだよな」
「少佐?」
「なのにどうして…そう何もかも抱え込もうとしちまうんだ、君は」
「っ…離して下さいっ」

いい子でいようとする事で築き上げてきた城壁を、あっさりと踏み越えられた。
幼い子供の意地っ張りの延長、だけどそれに縋る事でしか保てない自分。
父に、周りに迷惑をかけぬよう少しでも早く自立しようと、そうすれば認めてもらえると
頑なに信じて虚勢を張り続けてきた愚かさを曝けている今が、何より惨めで
取り返そうと力任せに腕を引っ張るが、エリート軍人と言えど成人男性のそれには敵わない。
軽々と制され、再びアスランの腕の長さ分だけの距離。見上げてくる視線が、痛い。

「それさ、無意識?」
「何…がですか」

これ、と言いながら、もう片方の手がアスランの左頬に触れる。
途端、後退ろうとした身体は、けれどやはり圧倒的な力によって繋ぎ止められたままで。

「君、俺を見るたびに真っ赤になってんの、知ってる?」

知ってるも何も、だからこそ一刻も早くこの場から去りたいというのに。
愉しそうに喉の奥で笑う男を直視できず、アスランがますますその顔を伏せた。
きっと逃げようとしている今さえも、ムウには幼子のように見えているのだろう。
これ以上、自分を崩さないでほしい。長い間形作ってきた自分を消さないでほしい。

すると、色付いた頬を視界から遠ざけた濃紺の髪を、ムウの剣呑な眼が捉えた。

「悪いな、俺は、見てるだけって性分じゃないんでね」
「うわっ!?」

不安定な中腰の状態でいきなり前方斜め下へと強く引かれれば、誰だってたまらない。
薄い身体は自然とその胸元へと落ち、背中に逞しい腕が回される。
いよいよ隠せない程に火照った顔を掬い上げられれば、息が触れる距離まで互いが近い。

「は、離して…」
「俺に惚れちゃった?」
「え?……ぇえ?!」
「あれ、自覚なし?」
「自覚…っそもそも惚れてません!それから離して下さいっ」
「いいねぇ、スレてなくて」
「ちょっ……っ!?」

重ねられた、だけでなく滑り込んできた熱に、言葉を、呼吸を奪われる。
敵わないと分かっていながらも、押し返そうと力を込めた両手を肩口にやるが
ざらりと舌が歯列を擽った感触に慄き、服を握り締めるだけで精一杯だ。
酸素を求めて開いた唇からは、吐息に混ざって唾液が零れ、羞恥にアスランはギュッと目を閉じる。
その初々しい反応に目を細めたムウが名残惜しげに唇を離せば、さっと口を覆い隠すアスランの姿。

「…本当に可愛いね」
「………っ」
「君は絶対に俺が好きだよ、アスラン」
「なっ…だ、だから…んっ」

抗議しようとした唇が、またしても男によって封じ込められる。
同性にキスされた事が嫌なら、泣くなり怒鳴るなりすればいいのに。
こんな力がほとんど込められていない腕から逃げてしまえばいいのに。
ますます抵抗を奪われてしまうような口付けに思考が追いつかず、アスランは戸惑った。

説明のできない、いよいよ頬だけにとどまらなくなった熱を感じながら。



fin.
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