イザアス好きさんに28題

□11:手のひら
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「どうした?」
「……いや」

こんな事でも、気は紛れる。



【11.手のひら】



「チェックメイト…?」
「違う違う、このゲームは王手」
「じゃあ、おうて。俺の勝ちだ」

言葉が分からず彷徨っていたアスランの手が、変な文字の書かれた五角形の駒をタンと置く。
一際大きな…要するにキングの駒が行き場を失い、勝敗がついた。
その瞬間、暇潰しに勝負を見守っていたラスティが手を叩いて囃し立てる。
隣で本を読んでいたニコルも、つられて小さく笑っている。

「イザーク9連敗〜」
「やっぱりアスランは強いですね」
「うるさいっ!!こんな奇妙なゲーム、勝っても足しにならん!」
「奇妙ってのは酷いだろ。第一、お前が言い出したんだぜ?」

そう言いながら大袈裟に肩を竦めてみせたディアッカだが、イザークの一睨みであっさり引いた。

シミュレーションが終わって、各自思い思いに過ごすはずの僅かな自由時間。
なのに訓練の時と変わらない面子が、アスラン達の部屋に集合している。
勝負を挑まれ、半ば強引に始められたチェスは全てアスランが勝利し
それに腹を立てたイザークによってゲームが変えられたのだが、それも全敗。
他に何かないかと吠えた彼に、それならこれはとディアッカが提案したのが“将棋”だった。
日本国の伝統ある遊びは、さすがに2人とも触るのも見るのも初めてで
同じ条件ならばと、簡単にディアッカからルールを教わって始めたのだが
ゲームの本質はチェスとあまり変わらず、やはりアスランが白星を上げたのだ。
テーブルの端に置いておいたレモンティーに手を伸ばすと、まだ残っていた冷たさが喉を潤してくれた。

「ところでディアッカ、何でしょうぎなんて知ってたんだ?」
「あー俺、日本国のものが結構好きなんだよ。言ってなかったっけ?」
「僕は前に、いろんな楽器を教えてもらいましたよ」
「俺はすっげー美味そうな料理の写真を見せてもらった!」
「そうなんだ、知らなかったな」

元より人付き合いが苦手なアスランの事。
彼にとって付き合いのある同期は、今この場にいる4人だけと言っても過言ではない。
そんな中で、自分だけが知らなかったのかと思うと少し寂しいものがある。
顔にこそ出ないそれを感じ取ったディアッカが、にっと笑いかけた。

「じゃあ今度、絡繰人形の写真見せてやるよ」
「からくりにんぎょう?」
「あぁ、金属を全く使わずに木材だけで作られたロボットみたいなものだよ」
「木だけでロボットが作れるのか?」
「そういう技術があったんだ」

目に見えて嬉しそうな顔をしたアスランに、ニコルもラスティもほっとした。
アカデミーに入ったばかりの頃は、その後ろにあるものの威圧感と
掴み所のない性格に何となく近寄りがたい存在だったが、なんて事はない。
これまでの生立ちが人との関わり方を不器用にさせているだけだと分かれば
一体どんな人間なのかと興味が沸き、足を踏み入れたいと思わせる。
親睦は、引いては今後の作戦行動での連携如何にも繋がっている。
もっとも、今の彼らには兵士としての打算的な考えは皆無だったが。

「是非見せてくれないか」
「りょーかい」
「すごいですね、それ。僕にも見せてくれませんか?」
「俺も俺も!」
「分かったから落ち着けって」

賑やかなやり取りから、ふとアスランは前に向き直った。
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