イザアス好きさんに28題

□12:出会い
1ページ/4ページ

思えばあの時、この運命は始まった。



【12.出会い】



大きなホールにたくさんの大人、静かな音楽に美味しそうな料理。
“しゃこうばでのまなー”を教えられてから1年、毎週末を同じような場所で過ごし慣れてはきたが
やはり7歳の子供にとっては退屈の方が大きいようで、ちょうどあくびをしていたところへ母・エザリアの声。

「イザーク、いらっしゃい」
「は、はいっ」

挨拶回りがあるからとなかなか一緒にいられない唯一の味方に呼ばれた先、優しげな女性がいた。
あくびを手で隠さなかったのを母上に見られなかったかというビクビクと、知らない人がいるというビクビクで
まなーを忘れて少しぽけっとしたあと、イザークは小さくエザリアに尋ねた。

「母上、この方はだ…どなたですか?」
「あら、覚えてないの?」
「え?」
「お久しぶり、と言っても覚えてないでしょうね」
「…えーと……」

2人の口振りからして、どうやら以前に会った事があるらしいが思い出せない。
満天の星を見た時の夜空のような色の髪に澄んだ浅瀬のような色の瞳を持つ、母上と同じくらいに綺麗な人。
たとえどんな人混みででも見たら絶対に覚えているはずだ、記憶力には自信がある。口ごもり、ぐるぐると考え始めた姿に女性が救いの手を差し延べた。

「ふふ、前に会った時はまだ赤ちゃんだったから。仕方ないわ」
「そんなに前だった?」
「私が出産で里帰りしてた時だもの。確かイザーク君、まだ1歳じゃなかったかしら」

流石にコーディネーターと言えど、物心がつく前の記憶というのは難しい。
良かった、バカになったのではなくて、などとイザークが安堵していると、目の前に差し出された色白の手。

「じゃあ改めてご挨拶を。初めまして、レノ…」
「初めまして、マダムっ、イザーク・ジュールです!」

遮るように早口で重ねた自己紹介に、言えたと自信たっぷりの笑みを浮かべるイザーク。
けれど母と女性の驚いた顔を見て、だんだんとその自信が奪われていく。
「出産」という言葉から結婚していると思い「マダム」と言ったが、違ったのだろうか。
それともやはり相手を遮ったのがまずかったのか、だがそうしないと…

「そうね、女性に先に名乗らせてはダメだものね。失礼を、ジュール卿。レノアと申します、以後お見知りおきを」

いつの間にか不安げな顔をしていたイザークに、目線を合わせて優しくレノアが微笑む。
ちらりとウィンクされ、注意しようと口を開きかけたエザリアも苦笑で終わらせる。
それを見届けてからイザークに向き直ったレノアは、独り言のように呟いた。

「それにしても、しっかりしてるわね。1つしか違わないのに」
「あら、アスランちゃんも利口じゃない」
「アス…?」
「レノアの子よ、すごく可愛いの」

確かに、この人の子供ならすごく可愛いんだろうなとイザークは思った。
遺伝とか難しい事はまだ分からないが、親子は似るものだという事は知っている。だって自分がそうだから。

「単に甘えん坊なだけよ、あの人が甘やかすから」
「そうなの?意外ね。ところでアスランちゃん、今日連れてきてるんでしょ。一緒じゃないの?」
「疲れたって言うから向こうの部屋で休ませてるの。大人しかいないものね、ここ」
「1人で?」
「えぇ、私は主人の代理でまだ挨拶回りがあるし」
「だったらイザーク、あなた、アスランちゃんのところへ行ってきたら?」
「え?」

突然話を振られびっくりするイザークの前にエザリアがしゃがみ込み、そっと耳打ちをする。
 
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ