イザアス好きさんに28題

□02:触れてみる
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逃げ腰になっているヤツは
普段よりも大人しくて少し従順になるという事を
初めて知った時の嬉しさと言ったら。



【02:触れてみる】



まず触れたのは、人差し指の先。

と思えばビクッと身を退かれ、僅かな感触を残してすぐさま離れる。
思ったよりも柔らかくて、少し冷たくて、微かに震えていた。
それは間違いなく、未知なる恐怖と背徳観念から沸き起こっているのだろう。
改めて目の当たりにした心境に、罪悪感と同時に愛しさが募る。
融通の利かない真面目さを、こんな風に穏やかに思える日が来るなんて思ってもみなかった。

もう一度、手を伸ばす。

同時にもう一方の手を頭の後ろに回して逃げ道を塞いでやると、小さく戸惑いの声。
聞こえていないふりをして4本の指を支えに親指を這わせれば、ぎゅっと力を込めたのが分かった。
が、震えは止める事が出来ないらしく、より鮮明になっている。
その初さに加虐心が首をもたげ、ぐいと親指で押し、開いた隙間へと滑らせるけれど
きつく閉じ合わされた砦に阻まれて、それより先へは進めなかった。

「開けよ」

その言葉に固く目を閉じたまま、ゆるゆると首を振り抵抗を見せる。
分かっていた反応に声に出さず笑い、イザークはゆっくりと顔を寄せた。
気配を察したのだろうアスランが双眸を見開き、翡翠と薄氷が至近距離で交わる。

「…ぁ……」

身体を竦めたのを認めて、わざと舌舐めずりをしながら更に顔を近付ける。
あと少しで触れるという時に再びアスランがぎゅっと目を瞑ったため、イザークは目的地を少しずらした。

「開けよ」

二度目の言葉は耳へと直接注がれ、予想外の事に驚いたアスランは
逡巡したのち、ひどくゆっくりとした動きではあったが、その言葉に従った。
申し訳程度に赤と白が覗くその中へ、誘い込まれるようにイザークが指を差し入れる。
歯列をなぞって、柔らかな肉を軽く押して、また歯列を伝う。
そうして引き抜いた指に纏わりついた唾液を、その目の前で舐め取ると
アスランがもう耐え切れないと言ったように、イザークの胸元に縋りついた。
服を握り締める両手はカタカタと震え、けれど瞳には必死さが滲む。

「……イ、イザーク…」
「何だ?」
「そっ…その、……恥ずか…しい…」
「……」

コイツは分かって言っているのだろうかと、時々疑いたくなる。
もちろんそんな狡猾さや計算なんて持ち合わせていない事は充分承知しているが
思っている事を素直に口に出す事は、本来苦手であるはずなのに
何故、今この時に、不器用ではあるが心情を伝えてくるのか。
その不器用ささえも誘っているようにしか思えないのは、決して自分のせいではない。

「……本当に貴様は…」
「え?」

何だと首を傾げてくる男心の分からない恋人に苦笑をこぼしながら
今度は有無を言わせずにその唇を熱く愛して、吐息をも奪う。

甘く長い夜はまだ始まったばかり。



fin.
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