イザアス好きさんに28題

□01:敵対意識
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【01.敵対意識】



「くそぉっ!!」

力任せに振り上げられた紙が、その薄さに反しバシッと鋭い音を立てる。
同じ紙を手にそれぞれに一喜一憂してざわついていた教室の空気がしんと静まり返り
誰もが声を発せずにいる中、勇敢な幼馴染みが人の輪の中へと進み出て
よっと声を出しながら拾った可哀想な紙を、その持ち主へと突き出した。

「どうしたよ、イザーク」
「どうもこうもあるかっ」

くそっともう1度吐き出し乱暴に受け取ったそれを、今度は机の上に
思いっきり開いた手のひらでこれでもかと言うように叩き付けた。

「まただ!またアイツが…っ!」

心底悔しがるイザークを余所に、尋ねたディアッカも
そして周りで立ち竦んでいる者たちも皆、聞かずともその訳は心得ていた。
ついでに言うなら、今回もイザークが激昂し騒ぎ立てるという事も。
全員の手元に1枚ずつ配られた、数字と名前がずらりと並んだ紙の左上。
そこに当然のように記されたイザークの名前の、更に1段上に
こちらもまた、いつもと変わりなく見慣れた名前が刻まれている。

1(1):アスラン・ザラ 998
2(2):イザーク・ジュール(ZAFT学院) 997

主要5教科各200点満点、よって合計1000点満点で競う年2回の全国模試。
先日行われたその結果、イザークは引き続き2位であった。

「すごいよな…こいつ、今回も無所属だもん」

トップの名前の後ろが空欄だと気付いた誰かが感嘆の声を上げる。
有名進学塾の名が並ぶ中、彼だけが高得点者の中でそれがない。つまり。

「それって塾通ってないって事だよな」
「え、じゃあ自力かも知れないって事?」
「やっぱ天才っているんだなぁ…」

再びざわつき始めた周りをイザークが無言でギッと睨み付ける。
そう、負けた事はもちろん悔しいが、それを更に逆撫でるのは
学校と塾、両方でどれだけ猛勉強してもあと1歩及ばないという事実。
それも相手は塾通いをしていない可能性があるのだから腹立たしい。
もちろん、家庭教師をつけて…という事も考えられるが
どちらにせよ、アスラン・ザラが出てきてから1度も勝てていないのだ。
イザークにとって、学校や塾、そしてこの全国模試においても
それまで断トツ1位を誇っていただけに、2年前から続く連敗は屈辱でしかない。

「どんなヤツなんだろうな、このアスランっての。つか『アスラン』って男?女?」

順位表を眺めながら呑気に尋ねるディアッカの声につられて
静まり返っていた空気の中、おずおずと誰かが口を開く。

「……アスランって…確かどっかの神話の中の神様の名前だったと思う」
「神様か、なら天才じゃなくて神童って言うべき?」
「あー、そうかも」
「なるほど、名は体を表すってヤツか」
「それちょっと違うんじゃない?」
「え、違うっ?」
「違わないだろ、神様みたいにすげーって事なんだし」
「確かに、手が届かないとこにいるよな」
「さすが神様!」
「で、その神様って男なの?女なの?」
「さぁ…どっちだろ」

瞬く間に話し声は広がり、それに堪え切れないとでも言うように
ガンッと成績表の上から机に拳を叩き付け、イザークは部屋を後にした。
彼が出て行ったドアを見つめ、全員がやり過ぎたかと立ち竦む。

「あーあ、こんなにしちまって…」

無言の怒りに誰もが声を発せずにいる中、ディアッカがやれやれと零し
もう1度、今度はグシャリと皺の入った哀れなイザークの順位表を手に取った。

「お前ら、あんまり煽んなよな」
「だってさ、あんなに感情剥き出しのイザークなんて滅多にないからさ」
「普段はずーっと仏頂面でおっかなくて何考えてんのか分かんないのに
全国模試ん時だけ、ものすっごく熱くなってるから面白くて」

そう、彼らはイザークの反応を楽しんでからかっていたのだ。
もちろんこれはイジメではない。こんな時でないとお堅い彼との距離が縮まらないからだ。

「だからって遊ぶなって」
「何だよ、ディアッカだってそう思ってんだろ?」
「さぁね」

ヒラヒラと2枚の紙を振りながら、教室を後にしたディアッカは
ため息を吐きつつ、イザークがいるだろう自習室に向かって歩き出した。
 
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