X*A SS

□傷だらけジレンマ
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苛立ちや腹立たしさ、そして憎悪、悔恨…そんなもの、今はどうでもいい。
問題は、この現状をどう打開しようか考えあぐねている自分の無力さだ。



【傷だらけジレンマ】



シーツに包まり鳴咽を堪えるアスランを見遣り、イザークは手を延ばそうとして
…思い直し、気付かれぬように固く組み直した。
この部屋に辿り着いてすぐに見た時から数えて2時間は経っているのだが
それだけの時間が過ぎたとも思わなければ、遥かに長い気さえする。
ベッドの傍らに椅子を引き寄せ、腰を下ろしてみたところで落ち着くはずもなく
何とか冷静になろうというのか、右足が忙しなく床を叩く。

何度目か分からぬため息と、同じ数鳴らしただろう舌打ち。

受け入れがたい現実は、だが否応なく目の前の痩身に重くのしかかり
普段は気丈で生意気で弱音を吐かない人間を、ここまでにした。

正直、どうすればいいのか…何か声を掛けてやるべきなのか、
掛けるとするならそれは、慰めか叱咤か、あるいは常日頃の嫌みか。
こちらの調子までをも狂わせるその姿を避けようと目を閉じれば
瞼の裏に焼き付いた光景が嘲笑うかのように浮かび上がる。



自分が何を目にしているのか、解らなかった。



演習終了後に教官に呼び止められ、随分遅れてロッカールームへと戻った時だ。
奥のシャワーブースから言い争う…というには違和感のある声がして
不審に思いつつ顔を向けたのが幸か不幸か、それを目にした。
そう離れていない距離、半分以上開けられたドア向こうに広がるブースの一角、
体格の良い上級生数人が、座り込む見知った顔を取り囲んでいる。
ただ立ち塞がっているだけなら、気にも止めなかっただろう。
教官から目をつけられている輩に捕まったヤツが間抜けなのだと
例えカツアゲに遭っていたとしても愚かと笑ってやるだけだったはずだ。
だが、目にした光景は、そんな生易しいものではなかった。

「…っ……はな…せっ…ぁ…」
「だーめ、まだ大丈夫だろ?」
「なぁなぁ次、次俺ねっ!」
「何だよ、せっつくなって。我慢できねぇならこっち入れたら?」
「んぅっ!…ふ……いぁ…っ」
「やっぱ、コイツは最高だよ、なぁっ」
「いっ…やめ、ろ……っ…あぁっ…」

見ている間にも、狂気の沙汰は恐ろしさを増していく。
胡座の上に抱えた腰を掴み1人が律動を続ける中、そこや胸に手を伸ばす者、
恥態を肴に自らを慰さめる者、それでも足りずに口へと捩込む者…
色白の肌の上、飛び散った白濁が幾筋も流れているのが遠目にも分かる。
同じ白でもこうまで違う印象を持つのかと、場違いにも感心すら覚えた。
声変わりして間もないだろう高い声には艶が混じり
かつ母親似だという顔と男としては未成熟な身体が、妙な既視感を与えるが
そんな事ある訳もなく、ヤツは男で、犯しているヤツらも男なのだ。

現に、色素の薄い腿から覗いた屹立した象徴は、白濁を滴らせている。

普段の取り澄ましたような面からは想像もできない妖艶さに
目を逸らす事も、踵を返す事もできずにいると気付いたのは
一際高く大きく上がった悲鳴が、鼓膜を叩いた時だった。

考えるよりも早く、脱いだ上着の内ポケットを探るとそれを起動させる。
直後赤く点滅したのを確認するや否やそれを向け、ダンッと力任せにドアを殴った。
物音に振り向き声を荒げようとした男達は、次に襲った閃光に目を細める。
連続した機械音が鳴り止む頃には、その場は奇妙な静寂に包まれていた。
 
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