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□仕方ない弱み
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'・* 仕方ない弱み *゚・
難しい言葉を冠した民族学の本を読み終え、イザークは背表紙を上にそれを閉じた。
題名に反して中身はそれほど目新しい事が書かれている訳でもなく
確かにこの手の専門書は読むまでその価値が分からないものだが
改めて目にした分厚さに、今回ばかりは、帯に踊る宣伝文句に釣られたのが悪かったかと反省する。
無駄な時間を過ごした、と背を伸ばすついでに後ろを見遣れば
視界に入った、時計を手に座り込むアスランの姿。
遠慮がちにだが床に工具を広げ、慎重に小さな部品を取り付ける様子を
何ともなしに眺めていると、どうやら作業が終わったらしく
程なくしてヤツも、さっきの自分のように両手を高く天井へと向けた。
「直ったのか?」
「あぁ。今何時だ?」
デスクの端に置かれた時計の示す時刻を伝えると、間もなくその時刻に合わせた時計が渡された。
随分と古めかしいそれは、数日間の眠りから覚めて時を刻んでいる。
「……大したものだな」
その事実に、我ながら珍しく素直に賞賛が口をついて出た。
自分でさえそう思うのだ、ヤツが一瞬間抜けな顔で固まったのを見逃さなかった。
そう言えば、この時計の修理を頼んだ時もコイツは同じ顔をしてから頷いていた気がする。
「……今の機械工学の原点みたいなものだから」
言葉は素っ気ないが、心なしかうっすらと色付いた頬が照れているのだと告げている。
その姿を前にして口調がいつものものへと戻ったのは、同じく照れ隠しからだ。
「店に出そうとしたら断られた」
「昔みたいな職人や専門家じゃなくて、全て機械任せだからな。アンティークであればある程、敬遠するんだろう」
「なるほど、貴様にはそれに勝る腕があったという訳か」
「別にそんなつもりで言った訳じゃない」
軽く睨まれたが、やはり以前のような苛立ちは湧かず
…それはコイツにとっても同じなのだと、すぐに緩められた顔を見て分かった。
目を合わせてどちらからともなく軽く吹き出す、その空気は柔らかい。