X*A SS

□知らず揺れる境界線
1ページ/3ページ

眉間に皺を寄せて、頬を赤くして、そっぽ向いて。
子供みたいに拗ねてる自分は、いつの間にか大人だった。



・゚* 知らず揺れる境界線 *:.



「よお」

片手を軽く上げて、これまた軽く掛けられた言葉に、正直アスランは驚いた。
ついでに言うと、何て間が悪いんだろうと自分の運のなさを呪った。
しんと静まり返った真夜中の格納庫に、まさか先客がいるとは思わなくて
1人きりになりたいという小さな願いは、目が合った瞬間に砕かれた。

「何こんな時間まで起きてるの」
「あ……」
「おーい、聞いてる?立ったまま寝てるのか?」
「い、いえ」

あなたがいるとは思わなかったから。
そう言うと、ムウ・ラ・フラガはそうだろうなとウィスキーの小瓶を揺らして楽しそうに笑った。
昼間、あれだけ騒がしかった格納庫にその笑い声だけがやけに響く。

「こっち」
「はい?」
「座ったら?突っ立ってられると、こっちも落ち着かないし」
「あ…すみません」

咄嗟に謝り、足早に指し示された場所へ向かい、腰を下ろしたところではたと気付くがもう遅い。
思ったとおり、やはりこの人を前にすると調子が狂う。
2人分の距離があるとは言え隣同士に並んでいるものだから、無遠慮に視線を投げ掛ける事もできない。
薄明かりで作られた影が動いたのを足下に見る…どうやら小瓶を煽ったらしい。
どうしたものかと正面を見据えたまま思案にくれるアスランに、再びムウが言葉を掛けた。

「どうだ?こっちに来てみて」
「え」
「落ち着いたか?」
「はい」
「無理しなさんなって。…あれだけの事があったんだ、優等生ぶる必要なんてない」

飲んで少し赤らんでいたように思ったが、反してその声は至極真面目なもので
別にそんなつもりはなかったが、本心を見透かされているような居心地の悪さを感じて言葉に詰まる。
出逢って間もない人間に対して失礼だが、アスランは苦手だなと感じていた。
ふと浮揚していくような心地がして顔に手をやると、明らかに平熱よりも熱く感じる。
きっと両頬は赤くなっているのだろう、拗ねた子供のように。
落ち着かないまま見上げた先、灯の落ちた中でも赤く鈍い光を放つジャスティスという名の機体。
数時間前に砂礫の大地に夕陽を浴びながら降り立ったそれは、違和感なくそこにある。
なのにその搭乗者は、まだ地に足が着いていないかのようにひどく不安定だ。

これで良かったのか分からない。
ただ、あの時の自分の気持ちに嘘はなかった、それだけははっきりしている。

連合軍の3機相手に苦戦する標的を、敵だとは思えなかった。
今になって思えば、キラと敵対するよりも以前から自分はザフト兵として失格だったのかも知れない。
血のバレンタインで失った母の仇をという気持ちが嘘だった訳ではない。
駄々を捏ねて我が儘を言って父を引きつければ困らせるだけだから
それを恐れ、どうにかたった1人の家族の愛情を得ようと必死だったのだろう。
その努力が実ったかと言えば、状況としてはこの上なく最悪な状態にまで落ち込んでいて
求め追いかけるばかりで周りが見えていない事にさえ気が回らなくなっていたとあっては、最早滑稽でしかない。

「……俺は、優等生なんかじゃない、です」

口にした言葉は、今度こそ本心からだった。

「親友を傷つけて、何人も殺して、仲間を…父を裏切ってここにいる。自分の道が全く分からず彷徨っている、どうしようもない愚か者です」
「そうか」
「……」
「なら良かった」
「え…?」

思いがけない言葉に振り向くと、安堵したようにこちらを見つめる男の顔。

「正直、ここに集まってる人間ってのは…みんな目標はあるんだ、けどその手段が分からなくてもがいてるのが現状だ。
まぁ仕方ねぇけどな、今まで戦争してた俺達が真逆の事をしたいからって、じゃあやってた事をやめればいいのかってぇとそうじゃない。…そんな単純なもんじゃない」
「………はい」

小さく、だけど固くしっかりと頷いた事に笑みを浮かべたムウが、その頭に手を伸ばす。
と、その手が髪に触れた瞬間、何とも言えない気恥ずかしさが沸き起こり、アスランは僅かに目を逸らした。
続いて頭をゆっくりと撫でられた事で、この顔の熱いのは幼子のような扱いを受けているからだと結論付ける。
そんなアスランの心境に気付いているのかいないのか、ムウは話を続けた。
 
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ