X*A SS

□stubborn honny
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【stubborn honny】



雲一つない綺麗な秋晴れだというのに、反してイザークは憂鬱だった。
部屋の空気を入れ替えようと観音開きの窓を開けると、その外と内の落差が更に気持ちを凹ませる。
手をかけたカーテンレールと、気持ち程度張り出した窓辺が沈もうとした体を支えてくれた。
暖かい光に、今朝干した洗濯物はよく乾くな…なんて自嘲気味に笑う。寝不足の頭には痛いくらいだ。

「おい、大丈夫か?」
「…大丈夫だ」

ベッドの中、2枚のブランケットと布団に包まれて横たわる恋人に向かって声を掛けると
いつもと変わらぬ素っ気ない口調が、随分と弱々しく返ってきた。
それもあまり信用してはならない言葉なのだから、舌打ちしたい気分に駆られるのも仕方ない。
コイツの幼馴染が言っていたらしい、『アスランの「大丈夫」はあてにならない』という話。
…そんな事言われなくても知っている、そう思うと余計に腹が立った。
くぐもった小さな電子音が鳴った事に気付き、イザークが目の前に手のひらを突き出すと
アスランは少し辛そうに身を捩りながら体温計を取り出し、表示された数値を確認してから
体調もあるのだろうが、渋々といった様子で時間をかけてその上に乗せた。
何となく予想はしていたが、イザークの眉間に皺が寄る。

「……39度1分」
「………」
「何だ、この数値は」
「う、うるさっ…ゴホッゴホゴホ…」

思わず返した語気が強かったのか咳込んだ病人を見て、今度こそイザークの口から舌打ちが聞こえた。

「その年でまだ自己管理できんとは。学生の頃と何ら変わらんな、貴様は」

普段のアスランならばそれに対して言い返すところだが、流石にそんな気力はないらしい。
代わりとばかりにきつく睨み付けているが、その瞳にも常の迫力は感じられなくて
イザークは今度は、分からない程度にため息をついてやった。
ふと、視界の端に細かな工作パーツが机一面に散らばっているのを認めて
それを手に取り見つめているうち、もしやと思い至った推測を口にする。

「貴様、昨日何時に寝た?」
「え?」
「まさかまた、機械弄りに没頭していたんじゃないだろうな」
「………違う」

電子工学の若き技術開発者として名を馳せるアスランは、仕事と趣味に境がない。
同じ質問に否定の言葉が返ってくるのは毎度の事で、やはりなと頷くはずが
図星を指されむきになるかと思いきや拗ねたような態度、どうやら本当らしい。
そうすると何故アスランは、珍しく風邪を引いているのだろうか。

「言っておくが、感染すなよ」
「分かってる」
「…ちょっと待ってろ」

どこまでも可愛げのない様子に、そう短く言って部屋を後にする。
もう少し暖かくした方がいいだろうか、いや、それよりも何か食べさせて薬を…
あまり慣れていない看病だが、一般的に風邪ならばその二択だろう。
結果、薬を飲ませてから暖かくして寝かせる事に決めて、イザークはキッチンへ向かった。


工作以外不器用なアスランの事、ちゃんと買い物をしているかどうか不安だったが
冷蔵庫の中に卵と小ねぎと一切れのささみを見つけ、慣れた手付きで調理にかかる。
米を研ぎ、基準より少なめの水と共に炊飯器に入れ早炊きのスイッチを押し
戸棚を漁って見つけた小さな片手鍋に水を入れて強火にかける。
沸騰したところにささみを入れて、茹で上がったら取り出し冷水にさらして身をほぐす。
茹で汁のあくを取り市販の和風だしの素を摘み入れ、再沸騰させてから火を止めて更にあくを取る。
そして沸騰と茹で上がりを待つ間に、小ねぎを刻んで卵も溶いておく。
こうして手際よく具材とだしの準備を終え、イザークは米が炊けるのを待った。
あと18分という表示を見つめるその脳裏に、引っ掛かっている疑問がまた浮かぶ。

何故アスランは、急に体調を崩したのだろうか、と。
 
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