X*A SS

□召シマセ華ヲ。
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「貴様らっ、とっとと帰れぇぇえ!!」

それは、新年一発目のご立腹でした。



【召シマセ華ヲ。】



「お、これ旨いっ」
「こっちの棒鱈もいいカンジじゃん」
「あ…ありがとう…」

次々と箸をつけられていくお節料理を見ながら、アスランは小さく微笑んだ。
元旦、新しい年の始まりを祝う特別な日の昼すぎ。
イザークの家に押し掛けてきたのは、イザークの同級であるディアッカとその先輩であるミゲル。
当然アスランからしてみれば、一応彼らは2人とも年(齢的には)上な訳で
突然鳴り響いたチャイムに玄関へ出たところ、有無を言わさず上がり込まれ今に至る。

「しっかしお前、よくこんなの作ったな。男子高校生にできるもんじゃねぇよ」

箸で摘み上げた昆布締めを眺めて、ミゲルはため息をもらし素直に感心した。
2段の御重はもちろんの事、椀によそわれた雑煮も、見事な出来だ。
その前にまず、男子学生2人住まいで重箱や漆塗りの椀が揃っている事がおかしいはずだが
そのうちの1人が古典文化にのめり込んでいる事は、2人ともよく知っている。

「イザークの本棚に和食の料理本があったから、ちょうど時間あるし作ってみようかなって」
「そりゃまあ冬休みだし時間はあるだろうけど…普通高3っつったら正月ねぇだろ、受験生」
「受験勉強なら毎日やってるぞ?日々の積み重ねだから」
「だったな、お前はそうだったよちくしょぉっ」

そして、もう1人がどれだけ真面目で優秀かという事も2人はよぉく知っていた。
彼が高校へ入学してすぐに生徒会へ勧誘したのは、当時生徒会長のミゲルであり
その1年後に副会長になってくれと泣き付いたのは、当時書記のディアッカだったのだから。
アスランがこの2人に対して砕けた口調を使うのも、その辺りに由来する。

「ところでイザークは?」

出汁巻玉子に箸を伸ばしながら尋ねてきたミゲルに、アスランは時計を見遣った。

「初日の出見に行って、帰ってきてすぐに論文に取り掛かってたから寝たのが遅いんだけど…
さすがにもう12時半過ぎるし、そろそろ起こしてこようか」
「あ、いいのいいの起こさなくて。ほら、寝不足で機嫌悪いと困るし」
「そうそう」

ずぞーっと白味噌の具だくさんの雑煮を啜ったディアッカが、それに同調する。
と、キッチンから電子レンジの止まった音が聞こえてきて
温め直していた竹の子の煮物を取りに行こうと、アスランが腰を上げた。

「でも、イザークに用があったんじゃないのか?」

ついでだし見てくるよと歩き出そうとしたアスランを、だがその手を取ってミゲルが制する。

「待てって。俺達はお前に用があって来たの」
「俺に?」
「そ、ディアッカ」
「おぅ」

ガサゴソと後ろを向いたディアッカが取り出したのは、何やら丁寧に包装されたもので
だが、新年のご挨拶というには熨斗もなければリボンもなく、透かして見えないようにか真っ黒な包み。
目の前に置かれた新年にしては不吉なオーラを纏うそれを見て、アスランは訝しんだ。

「これ、な…」
「開けてからのお楽しみ」

何だと問うよりも早く、というよりもまるで聞くなと言わんばかりの言葉に、ますます不安が増す。
とりあえず手に取って四方八方から眺めてみたが、自ら動くものではないと分かっただけで
指が僅かに食い込む感触のわりには重いそれを、はっきりと断定する事は難しい。

「開けていいか?」
「もちろん。ただし、ここじゃなくて部屋でな」
「何でわざわざ…」
「あ、でもアスラン1人だと無理じゃね?」
「そうだな…よしディアッカ、お前行ってこい」
「りょーかいっ」
「開けるくらい1人でできる」

怖じ気付いてるとでも思われたのかとアスランが反論したが、2人はいいからと口角を上げた。
そのよくない笑みに僅かに怯んだ腕を掴んで、ディアッカが歩き出す。

「さ、行くかアスラン」
「ちょっ…ディアッカ!」
「アースラン」

もがこうとしたアスランに、ミゲルがにっこりと、それはもう楽しげな笑顔で話しかける。

「先輩2人の頼み、断る訳ないよな?」
「っ……」

そう、いくら気心が知れていて普段敬語を使わないといっても2人は一応先輩。
その少し忘れかけていたけれど紛れもない事実に、真面目な性格がきちんと反応し
結果、アスランは手を引かれるまま大人しく自室へと歩いて行った。

「さって、どうなるかねぇ…くくっ」
「……何故貴様がここにいる?」
「ぉわっ?!」

炬燵机に顎を乗せ悪巧みにほくそ笑むミゲルの頭上へ降り注いだ、少し掠れた低い声。
2人と入れ違いでリビングに現われた、この家の主であるイザーク・ジュールは
ミゲルにとってアスラン同様後輩…のはずだが、彼はおずおずと顔を上げてへらっと笑ってみせた。

「よぉ、あけましておめでと。今年も」
「何故貴様がここにいるのかと訊いている」

寝起きである事と睡眠不足である事と突然の来客、そして恋人の姿が見えない事。
イザークの機嫌を損ねるには十分な要素が上手く重なり、眉間へと刻まれる。
正月早々雷を食らう覚悟で出向いてきたミゲルだが、その反応はやはり後に取っておきたいらしく
愛想笑いを浮かべながら、まずは座れよと上座に座布団を敷いて促した。
それを怪訝そうに見ていたイザークだったが、さすがに起きてすぐに怒鳴る気にはなれないのか
渋々用意された座布団に腰を下ろし、炬燵の中へと身体を潜り込ませた。
と、目の前に広がったあまりにも自然で違和感のある光景に、その柳眉を顰める。
綺麗に盛り付けられているはずのアスランお手製の重箱の中が、少し寂しいのだ。
椀や取り皿、祝い箸にも使用の跡。自分はまだ手をつけていないというのに。
なるべく目を合わせないようにしているミゲルはその変化に気付くはずもなく、深く息を吸い込み話し始めた。
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