X*A SS

□召シマセ全テヲ。
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【蝶ヨ召サレヨ。】



「それさ、動きづらくねぇの?」

見慣れない後輩の姿をじろじろと眺めて、ミゲルが尋ねる。
その目の前にいるディアッカは、脱いだ羽織を丁寧に畳みながら苦笑した。
若草色の端にさりげなく黄色のススキがデザインされた着物がよく似合っている。

「あー…まぁね、普段着よりは確かにそうだけど。俺慣れてるし」
「慣れてる?」
「言ってなかったっけ、俺ん家、母さんが日舞教えてんだよ」
「知らねー知らねー!へぇ、じゃあ何、お前踊ったりするわけ?」
「まぁ、ちょっとだけど」
「マジか」

今まで知らなかった意外な一面に驚くミゲルに、そうだと閃く。

「ミゲルも着てみねえ?着物」
「あんの?」
「ちょい待ち…えーと…」

そう言って引き出されたタンスから、ディアッカが次々と和紙に包まれた着物を取り出す。

「え、いくつ持ってんのお前」
「いや、これ親のもあるから。これとか母さんの昔のだし」
「ふーん…やっぱ男物とは違うな」

藍、浅葱、萌黄…髪と瞳に合わせてどれがいいかと思案するディアッカに感心しつつ
辺りのものを広げては眺めていたミゲルの目に、1枚の色が鮮やかに映った。

「なぁ」
「ん?」
「これさ、アスランに似合わねぇ?」

その言葉に顔を上げたディアッカの目が丸くなり、やがて2人の目がかち合う。

「お前、天才?」
「今更じゃね?」
「ちょっと待っててくれ、着替えてくる」

言うが早いか薄手のニットとデニムに着替え、戻ってきたディアッカが
ミゲルによって包み直されたそれを、さらに黒い紙で多い隠して鞄に入れ
冬風寒い空の下、2人は意気揚々とある家を目指して自転車を走らせた。

その家から出ていけと怒鳴られ逃げ帰るのは、それから1時間後。
出しっ放しになった思い出の品々についてディアッカ母の小言が始まったのは、言うまでもない。



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