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□しのぶれど
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【しのぶれど】



終礼を告げるチャイムは、学生にとって何よりの福音と言えよう。
授業から解放された少年少女たちは、部室や家、ゲームセンターへと足を向ける。
掃除も終わり、ほとんどの生徒が教室の外へと足早に駆けていく中
席に着いたまま一度片付けたノートを再び広げた少年に、友人たちが首を傾げた。

「あれ?アスラン帰らないの?」
「今日は委員会ないんだろ?」

瓜二つのきょとんとした顔で尋ねられ、アスランは言葉に詰まった。
2年生になってすぐに風紀委員長に任命されてから、やれ委員会だ見回りだと忙しくしている彼は
終礼と同時に、たくさんの書類やファイルを抱えて教室を出ていくのが常で
逆に今日のように会議のない日は、帰宅部であるため鞄を手に寄り道もせずに家へと帰る。
つまり会議のあるなしに関わらず、いつまでも椅子に座っているというのは非常に珍しい事なのだ。

「あ、えーと…ちょっと勉強しようかなぁと思って」

咄嗟に考えた理由、それを真に受けて金髪の少女が呆れたとばかりに声を上げる。

「お前、それ以上勉強したら頭おかしくなるぞ」
「…カガリは少しくらい勉強した方がいいと思うよ」
「何か言ったか?キラ」
「ううん、何も」

ぼそっと、本当に小さく隣で発せられた同じ顔をした少年の言葉を、カガリは聴き逃さなかった。
にっこりと見せた彼女の笑顔は、普段の屈託のないものとは明らかに違う。

「カガリー!先に部室行ってるねー!」
「おぅ、分かったー!」

双子の姉の眼がドアへと向けられた事にほっとするキラには悪いが、話題が逸れたとアスランもまた安堵した。
下手にあれこれつつかれでもしたら、必ずボロが出てしまうだろうから。
嘘を吐く事が人一倍苦手で、おまけに顔に出ると自覚しているのだ。
もちろん、それをよく知っている鋭い幼馴染みは、簡単に追及の手を緩めない。

「で、何の勉強するの?」
「え?えっと、英語でもやろうかなって。ほら、中間1日目にあるし」
「そっか。でもアスラン、それ数学のノートだよ?」
「え……あ、あれ?」

言われて視線を落としてみると、確かにそこにはアルファベットではなく数字が並んでいて。
慌てて机の中を探り、英語のノートか何かを出そうとするが見つからない。

「ん?ちょっと待てアスラン、今日英語なかったぞ」
「……あ…えーと…」

カガリの言葉で浮かんだ今日の時間割に英語は見当たらず、アスランは困った。
そんならしくない様子に、カガリはほら見ろ勉強のしすぎだと笑いながら友人の後を追う。
そしてキラも苦笑しつつ帰り支度を済ませて、教室前方のドアへと足を向けた。
アスランの居残りがない時は必ずと言っていいほど一緒に帰るのだが、残って勉強をするつもりはないらしい。

「じゃあアスラン、また明日」
「あぁ…」

ひらひらと力なく手を振るだけで落ち込んだまま見送ってはくれないその姿に、少しキラはムッとした。
本当は今日だって一緒に帰ろうと思っていたのに。
アスランが喜ぶのならと先に帰ろうと決めたのに。

「…アスラン!」

堪らず呼び掛けたキラの声に、ようやくゆるゆると彼が顔を上げる。

「銀髪おかっぱによろしくねっ」
「………な…っ?!」

その音が耳に入り脳髄を通過し正しく認識された瞬間、アスランの瞳がこれでもかという程に見開かれた。
パクパクと開いては閉じる口からは声が出ず、顔面は真っ赤だ。
悔し紛れの皮肉な言葉はキラ自身も傷付けたが、そのあまりにもな動揺を目にした事でいくらかスッとしたらしく
それじゃあねと深い笑みを残して、キラは軽やかな足取りで去って行った。
その姿を見遣ったまま固まってしまったアスランに、声が掛けられる。

「おい、帰るぞ」
「ぅわ?!」

ガタ ガタガタンッ
 
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