starry-eyed

□ONLY
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【ONLY】



毎日食べている学食ももちろん美味しいとは思うけれど
自分のために作られた料理は、比べ物にならない程に美味しい。
ましてやそれが、恋人の手作りならば尚更だと思いながら
いい奥さんになれるよ、といつものからかいを口にした。
ところがそれに対する反応は、いつもの呆れたため息ではなくて
話半分と言ったような曖昧な頷きだけだったものだから。
そして食事が終わって片付けも終わり、ゆったり寛げる時間なのに
どこか上の空でソファに沈む彼に、いよいよ痺れを切らした郁は
微妙に空いていた距離を詰めて、俯けている顔を覗き込んだ。

「…なぁ、郁」

琥太郎もまた、気まずくなりそうな空気に流石に気付いていたらしく
それをきっかけか、後押しにでもしたようにゆるゆると顔を上げた。なのに。

「何?」
「あー…いや、何でもない、悪い」

返って来た言葉に口は重く、1度合った視線もすぐにはぐらかす。
思い当たるところのある郁にその反応は面白い訳もなく
ならばとばかりに身体ごと琥太郎に向けて、ソファに上げた片足を折った。

「じゃあ、僕から質問していい?」

その膝にもたれ掛かり頭を低くすれば、自然と上目遣いになり
常とは逆方向からの視線に、琥太郎は圧されるようにぎこちなく頷く。

「今、琥太にぃが言い掛けたのってさ、今日と関係ある?」
「何で分かっ…あ、違う、そうじゃなくて」

驚き、少し慌ててみせるその姿に、郁はやっぱりと苦笑を零す。

「それくらい分かるよ。っていうか、琥太にぃが忘れる訳ない、でしょ?」

おかしそうに、それでも自信たっぷりに見据えて発せられた言葉に
一瞬目を見張った琥太郎も、投げ出していた足を少し引き寄せて笑みを浮かべた。

「当然だろ、お前たちが生まれた日なんだから」

ここは、「お前が生まれた日」が普通なのだろうけれども
そう言った琥太郎の表情は懐かしさを覚えてか穏やかで
そんな顔を見せられては、恋人としての文句も言えなくなる。
元より郁にとっても、今日は自分と姉の有李の生まれた日。
幼馴染みでもある彼が、自分達を大切に思ってくれている事を
実感できる言葉を聞けたのだから、それはそれで満足できるものだった。
だが、そこで「ありがとう」なんて口にできるほど素直ではない郁は
感謝は心の中で呟くだけにとどめると、ソファの背に肩を預けて
仕切り直すように、少し声を大きくしてゆっくりと喋り掛けた。

「で?何を言い掛けたの?」
「そう来たか」
「いいじゃん、教えてよ」

ちょっと我が儘にも聞こえるその言葉は、まだ幼かった頃の彼を想起させ
こういうところは変わらないんだなぁと、言わないものの目を細めて
琥太郎は、昔のように5歳年下に観念してようやく本心を白状した。
 
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