レイアSS-C
□そして全てがあなただけ
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「ずっとずっと。終わらない夢の中でお前だけを思い続けていた」
そう目覚めた彼は言った。
「ここから目覚めたくない・・・・・本気で思うほど妙に幸せだった」
そういって彼は困ったように視線を少女へと向けた。蒼い月が浮かぶ夜空の彼方には、数多の星が奏でる光。その煌めきは見つめる彼の瞳の中まで広がって。じっと見つめられた少女は自分の頬が熱を帯びていくのを感じた。
「でも良かった。戻ってきてくれて」
ポツリと呟いた少女の言葉に、少年ははにかむように微笑んだ。
「悪かったな。心配をかけてしまって」
そんな言葉も束の間に、するりと細い腕を伸ばして同じ目線の少女の頬をなぞる。ほんのりと暖かいその頬の感触に少年は一つ息をつく。
「現実感のない世界で、まあ夢だが。その中でウサギに出会った。猫やらトランプやら帽子屋やら」
「まるで不思議の国のアリスだわ」
「そういえば、ウミ、お前に借りた本で・・・・・・」
自分で組み立てた夢に自分で落ちたのか。情けない話だとため息を付いた少年に、少女は僅かに頬を膨らませた。
「クレフだけが悪いんじゃないわ。多分私も一緒になって遊んだのが悪かったと思うんだけど」
「そうか。確かにあの後だったな。私が術を失敗したのは」
「まったくもってそれが原因そのものじゃない」
もう、と肩をすくめて呆れる少女に、少年はただ苦笑するしかなかった。
「そうだな。これだけの失敗は今まで経験がない」
ふわりと空をなぞり光の粒を撒く。それは二人が密やかに作り上げた幻の世界。己を捕らえた夢の仕掛けがふわりと空中にホログラムのように浮かび上がる。
「あ、危なくないの?それ・・・・また・・・・」
「こうして操るのは造作もない、のだが」
宙に浮かぶその映像には沢山の生き物たちがそれぞれ自由勝手に動き回っているようだ。ごちゃ混ぜに童話の世界が詰まった卵から雛は生まれるか。
「せめて出口を作るべきだったな」
「出口?」
「錆付いて動かないような」
「なんでぼろぼろの必要があるの」
「夢から覚めたくないと迷う時間が欲しい」
「クレフの・・・・・ばかっ・・・・」
「そう本気にするな。冗談だ」
睦言に程遠い少女の怒声にもただ笑うだけ、そんな少年の言葉は胡乱に満ちて何とも怪しい。
「冗談に聞こえないわよ全然!」
胸に生まれたこの感情。心配させて怒らせて、それで構ってもらえるなんて子供じみて情けない。
けれど抜け出せない。このまま二人で過ごしたい。
邪な思いが渦巻く胸の中。浄化して欲しいなんて君にすがるのも悪くない。