レイアSS-M

□君のリング
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のりんぐ





「ここ。どこ?」

目の前は白いとも何色とも言えない色彩に満ちた空間。少女の口から真っ先に出た言葉はこれだった。

「・・・・・・・・」

「ようやく、起きたか」

「!!?」

呆然としたまま次の言葉を探すでもなく立ち尽くしていた自分の背後に突然の気配がしてビクリと振り向く。
「ここまで寝坊助な魂は久しぶりに出会うな」
「は?」
振り向いた先、意味不明な言葉を発する人物。見ず知らずの人から言われた台詞もわけが分からないが、なによりも。

「あなた誰?っていうかここは何処?」
「私はだあれ?と聞かない程度にはまだ冷静ということか」
呆れたような眼差しで少女を見つめるその人物。背の高さは同じぐらい。目の覚めるような美しい容姿に相応しいような、けれども冷たさを覚える青い瞳に薄いラベンダー色の髪をした男が呆れたようにこちらを眺めていた。

「何よそれ」
「言ったとおりだ。さて、単刀直入に伝えるが、お前は死んだ」
「はぁ?!」
更に理解不能な言葉を発する男に少女は思い切り眉間にしわを寄せた。

「死んだと言うことはまあ、魂という形でここにいる。そしてこれからあの世への扉をくぐろうと言う段階だ。こここまでは理解したか?」
淡々と話を進める男に少女はストップ!!とその顔の前で両手をブンブンと振った。

「ちょ、ちょ〜っと待って。すこ〜し時間を頂戴。そして質問させて」
「何だ?」

説明に水を差されてあからさまに不機嫌な男にの様子も介せず、少女は、ぐわっと顔を近づけた。

「まず。あなたは誰?」

その距離僅か60センチ弱。妙な展開に戸惑いを隠せずにいる男に少女は更に、ずいと右の人差し指を向ける。

「わ、私が何物かと?別にお前は知らなくてもいいだろう」
あからさまに礼を失している行為に男はムッとした表情で言い返す。
「だ〜か〜ら。とりあえず名乗りなさい。『あなた』なんて夫婦でもないんだから名前で呼ばせなさいよ」

相手の不機嫌なんてなんのその。今この現状を知っているなら教えなさい、と眼力を思う存分発揮する少女に男は深く溜息をついた。
「・・・・・随分気の強い娘だな」
「これも一種の交渉術よ」
少女に一切引く気はないと理解した男はもう一度溜息をついてしぶしぶ、口を開いた。
「私の名はクレフという。肉体を失った魂をあの世まで送り届ける死神といったところだ」
「死神?」
目の前の男、クレフの言葉に少女は目を点にして問い直す。

「ああ。ひと時の安らぎを死せるものに与えるべく、存在する」

落ち着いた口調で語られる言葉に少女はゆっくりとクレフのつま先から頭のてっぺんまで見上げて「あれ?」と呟いた。
「死神って言うけど、それって天使の輪っかじゃないの?」
少女の指差す先、クレフの頭上には白金色のリングがふんわりと浮かんでいた。

「ん?まあお前がそう思うならそう思えばいい」
やれやれ、と疲れたように息をつくクレフに少女は更に疑問をぶつける。

「そう思っておくわ。で、ここはどこ?」
「人の話を聞いていなかったのか?」
「聞いてるけど?あなたの名前はクレフって言うんでしょ?」
少女の言葉にクレフはガクリと肩を落とした。
「・・・・その前だ。ここはあの世とこの世の境目と説明したろうが」
「してないわよ」
「同じような意味で私は言ったつもりだ」
少女の歯に衣着せぬ言葉にさすがにムッとしたのかクレフの声も少々荒くなってくる。

「伝わらなきゃ意味無いわよ」
「口の減らん小娘だな」
「小娘とは何よ。ちゃんとウミって名前があるわよ」
「知っている。今日最後の仕事だからな」
どさくさにまぎれた自己紹介もクレフに受け止められずさらりと流されて少女=ウミのテンションも次第にボルテージを上げていく。

「仕事って何よ。私がなんでクレフにお世話にならなきゃいけないのよ」
「堂々巡りだな。私はお前をあの世に送っていく死神だと言っただろうが」
「死神にしては天使の輪っかなんて頭の上に浮かべてるじゃないの」

ウミがびしっと指弾する頭上のリングにクレフは忌々しいとばかりに言葉尻も荒く言い返す。
「正式には天使だ。が、陰気な職業だから死神と変わらん!」
「自分の職業は下卑しちゃいけないわよ。職に貴賤は無いのよ」
「ほんっとうにお前は、ああ言えばこう言う・・・素直にハイと返事は出来んのか」
「ハイなんて言える会話が何処にあったのよ」
「・・・・・・」
怒涛の言葉攻め、もといウミの剣幕に圧されてクレフは言葉に詰まった。





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