レイアSS-M
□嵐呼ばざり
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「剣を使えない身体になってなおさら、戦う力が、欲しかった」
そう、何時だったか忘れたけれどあいつがポツリと呟いた言葉だ。
誰よりもこんなろくでもない世界を愛していた。
愛してはいたけど屈することは無かった。
始めての挫折は職責の剥奪。裏切られ、騙され、嫉まれた末の転落。
それでも、与えられた苦汁すら貪欲なあいつの前にはただの良質の肥料だった。
その証拠に数百年後、魔道士として最高位に上り詰めた。おまけに裏で政治のいろはも学んだ。
ついでに彼を蹴落として最高職に就いた前任者へのあてつけのように、己の弟子にかつての己の称号を与えた。
全てをその手に欲したその姿は、かつての師を髣髴とさせた。
ただあいつと俺たちの師との違いは、全てを守り抜くという姿勢。
師は手のした全てを、手放した。混沌の時代をさらに暗黒の時代にした。
その師の姿を見て自分もあいつもこの世界を救わねばと、そう心に誓ったのは500年の昔。
そして人生最大級の裏切りにあったのも500年前。
無二の親友であり、同じ師の元で学んだ級友であったあいつと道を違えたのも500年前。
忘れようもない過去が胸に過ぎる。
ふっ、と皮肉気に唇を上げて体躯の良い青年は一人空を見上げた。
久しぶりに帰った故郷は、何も換わっていなかった。
ちょっとした驚きもあったけど。
ふわり、と風を操り身体を浮かせる。水晶の輝きを放つ城を見つめて彼は再びにやりと笑った。