騎士皇子でジノカレ風味。
來珀様にささげます。
色合いアイロ
大事な話があると言われ、半ば訳の分からない期待を胸に通された彼の部屋。
期待する反面、冷静な自分が自分に毒をつく。
そんな複雑な心境の僕に、部屋に踏み入れて一番。
『どう言うつもりだっっ』
麗しい見目から想像もできない程低い声でどやされた。
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「スーザークー」
金髪碧眼から伸ばされた自分の名を徹底的に無視してやる。
声音には隠そうともしない笑いが含んでいた。
「ダメだこりゃぁ」
「いい気味ね」
続くのは濃い桃色の髪を肩まで伸ばした女性。
「このまま見放されればいいのよ」
よくもまぁ、散々と好き勝手言ってくれる。
「でもさ!もう、決定事項なんだろ?」
そう、ジノの言う通り。
主に反対された事は、最早皇帝にまで届いている決定事項。
基、皇帝から許可を得なければ成されない事柄だ。
「そんなの、ルルーシュ殿下次第でどうにでもなるでしょ」
何せ当事者本人なのだからと続いたカレンの言葉は、正に今、僕の胸にある不安を煽るもの。
それらを…何とかしなければ…
やっとここまで辿り着けたんだ。
僕の目指す未だ届かないスタート地点。
「タイムリミットは三日かな」
嬉々として放った金髪おさげの言葉に、含まれた意味は言わずとも知れた事。
三日…
三日で彼を…
我が主、ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア殿下を説得しなければ。
君の側に控えるのは、常に僕でありたいから…
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「何をそんなに怒っているんですか?お兄様」
珍しく最愛の妹の前で仏頂面を披露する我が主。
「お兄様?」
そして、ナナリー殿下の声が届かない程のご立腹。
「あっ、わ…悪いなナナリー」
慌てて眉間の皺を緩み、何時もの特定の人にしか見ることのできない顔を向ける。
「今度はどんなクッキーがいいんだ?時間があったら焼いてこよう」
焦って出した話題は噛み合うはずもなく、小さなお茶会の為に訪れたその部屋の主は、より心配そうに眉を寄せて返す。
「一体、何があったのですか?」
穏やかな妹君の口調とは裏腹に、紡ぐ声は強く真実を求めていた。
強い声音に一度口を噤んで、目の前の少女にはどうしても晒したくない事実を紡ぐように我が主は言葉を放つ。
きっと知らせたくないのは、余計な心配や悩み事の負担を妹にさせない為。
目の前の両殿下を知る人に聞けば、必ずしもルルーシュ殿下の寵愛を一身に受けているのは他ならぬ、この姫君と口にするだろう。
僕にとっても守るべき人だ。
主の心を守る為に。
「十日後の話は聞いているか?」
「十日後?…"就任の儀"ですか?」
日程の日取りが伝わっているのなら、当人たちの名が届くのも時間の問題。
正式な発表は一週間前に出され、当日まで準備に開け暮れる。
それらを待たずしても、この場に当事者が二人いるのだから、噂が流れない方が難しいだろう。
「このバカは、あろうことがその十日後に騎士就任を受けるんだと」
「殿下っ」
めいいっぱいの隠しようもない嫌味をたっぷり含んだ言葉に、その言葉遣いに思わす声が上がった。
「しかも、この俺に何の相談もなしに皇帝に取り繕って」
「ルルーシュ」
治まらない主の皇族らしからぬ態度に、思わず自分も地が出る。
「僕は何時だって望んで来たじゃないか、君の騎士であることをっっ」
思いの他、荒げてしまった声に、負けじと怒鳴り声が返って来た。
「お前は分かってないんだっ!騎士だぞ!護衛とは違う。皇族の盾と剣に成る意味をっっ」
「そんなのは知ってるっ!だからこそ…だからこそ他の人に譲りたくないんだっっ」
君の盾と剣の大役。
「俺は一生騎士を持たないと言っただろうっっ」
一番の壁を渾身の力を込める様に返される。
微かに荒い息が耳に届いた。
怒鳴る行為にでさえ、体力の保たない我が主。
それでも睨み付ける瞳の気迫は、万人をおののく程の鋭さを増す。
両者一歩も引かない険悪な空気。
タイムリミットまでもう後一日だ。
幾度となくこの口論…いや、ケンカをして来たのだろうか。
まるで出口のない迷路の様に息苦しい。
「スザクさんがお兄様の騎士に成られるのですか?」
そんな空気に放たれた穏やかな声音。
「ナ、ナナリー…」
最愛の妹の前でしでかした失態に、アメジストの瞳は怯みそして落ち着きを取り戻す。
亜麻色の姫君はバツが悪そうな兄に触れぬまま、ゆっくりと、どこまでも穏やかに言葉を続けた。
「おめでとうございます。お兄様、スザクさん」
思わぬ言葉。
主の顔がキョトンとなる。
「これで皆さん、ずうっと一緒にいれますね」
ユフィにジノ。
ナナリーにカレン。
そしてルルーシュに僕。
これがいかに素敵なことかと語る妹君。
自分にとっての思わぬ天使の囁きに、我が殿下は言葉を発することも出来なかった…
思いがけない救いに、僕は無事この日を迎え、今ここに立つ。
騎士就任の儀。
後は今日という日を無事に終えるのみ。
そうすればもう、専属護衛の名に甘んじる事なく、堂々と動ける。
色鮮やかな装飾のつく正装。
この服にある重荷を自分はどうものに出来るだろうか。
途端、コツリと後方に聞こえた足音。
「一体どんな手を使ったんだか」
言葉から、わざわざ控室にまで出向いてくれた女性に、どうやら祝いの気はないようだ。
「カレン、もうよせよ。私達の完敗だってことだ」
悲しいけどなと、後に続く金髪おさげ。
馴染みの顔に、思いの他緊張が和らいた。
「あんたもそうだったの?」
初耳と言う表情に男はおどけた顔を返す。
「見習いの時に…騎士は持たないってさ」
ジノ・ヴァインベルグ。
カレン・シュタットフェルト。
互いに名家の生まれ。
皇族の騎士には申し分ない実力と実績がありながらも、第十一皇子に断られた二人。
それでも、目の前の二人が案外自由に第十一皇子の周りを出入りしているのは、他ならぬ殿下自身の計らい。
俗に言う幼馴染みである僕らに気を使って、ユーフェミア殿下にジノを、ナナリー殿下にカレンをつけた。
けど…僕は護衛のまま。
いいや、護衛であることも、散々反対されたっけ。
「とにかく、これだけは守って」
唐突に掛けられた真剣な声音に反射して、声の元を見据える。
「ルルーシュを傷付けたら、私がその首取るからっっ」
女性に似つかわしくない漢らしい発言。
これがカレン。
共に同じ祖国をもつもの。
手痛い言葉にある真意を知らない訳じゃない。
「自分の身を守れない奴に、ルルーシュは任せられないから、これも頭にいれて置くんだね」
まるで捨て台詞かの様にカレンはジノを引っ張って退散する。
自分の身を守れない奴か…
ルルーシュが騎士を拒み続けた理由。
自分の身代わりに、自分の為に、誰かが傷付くことを極端に嫌う皇子。
欲を言えば、一番に彼に認められ、喜んで欲しい騎士就任だけども、今彼の心はどうなんだろうか。
見上げた時計。
もう時間だ。
僕は…新な決意を胸に、就任の儀へと足を進める。
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